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身体の病気

腰椎椎間板ヘルニア


 背骨を構成するひとつひとつの骨を「椎体」といい、椎体と椎体の間には「椎間板」と呼ばれるものがあります。

 椎間板は、人体最大の無血管領域と呼ばれ、椎体と椎体の間にあって、一種のクッションの役割を果たしています。

 椎間板は、その中央部にゼラチン状の「髄核」をもち、周囲にはコラーゲンを豊富に含む「繊維輪」というものがあります。


 この「髄核」や「線維輪」の一部などが突出した状態が〔椎間板ヘルニア〕と呼ばれる疾患です。

 背骨の中を貫通している腰や足につながる多くの神経が直接的に圧迫されるために、足腰の痛みやしびれなどの症状が現れます。

 足腰の痛みやしびれは、身体の片側だけに出る場合が多いものの、左右両側に現れる場合もあります。

 この病気は〔坐骨神経痛〕を伴うことが多いです。
椎間板正常時 椎間板断面正常時


どんな病気ですか? ◆「腰椎椎間板ヘルニア」とは、一体どんな病気なのかご説明します。
どんな病気ですか?
ヘルニア  多くの動物では、四本足であるために脊椎は重力に対して垂直であるのに対して、直立歩行する人間では、体重は脊椎にまともに加わります。このため、椎間板には大きな負荷がかかることになります。

 左の図で示すように、椎体と椎体の間にある椎間板の一部が突出して、神経を直接圧迫している状態が椎間板ヘルニアです。

 椎間板付近を通過している神経の本数は非常に多く、どの神経が圧迫されているかにより症状は異なりますが、圧迫される神経の種類によって、足腰の痛みや痺れが起こることになります。




どんな症状ですか? ◆「腰椎椎間板ヘルニア」の症状をご説明します。
症状の出る部位
背骨の構造  腰椎椎間板ヘルニアの症状は、どの椎体間にできたヘルニアかにより症状が異なります。身体の片側だけに痛みが発症することが多いですが、ヘルニアが非常に大きくなった場合には、両側に発症することもあります。

 椎間板ヘルニアが起こりやすいのは、5個ある腰椎の下位二つの椎体L4/L5間、最下位椎体L5と仙骨S1との間が最も多く、次いで、下位の頚椎にも多くみられます。

 胸椎は、胸郭により椎体間の可動性が少ないために、椎間板ヘルニアの発生頻度は少なくなっています。

 腰椎同士の間や仙骨との間で起こるヘルニアが腰椎椎間板ヘルニアと呼ばれています。

腰椎椎間板ヘルニアの症状  椎間板ヘルニアによる一般的症状には次のようなものがありますが、どのような症状が出るかは、圧迫されている脊髄神経(神経根)により異なります。激しくなると腰の曲げ伸ばしもできなくなったり、痛くて立ち上がれなくなったりします。前傾姿勢や椅子に腰掛けるのも困難で横になるしかないこともあります。また、咳やくしゃみでも激痛が起こります。

 ・腰から足先にかけての痺れや痛み、筋力の低下。
 ・坐骨神経痛
 ・排尿障害

椎間板ヘルニアの一般的症状
腰痛・下肢痛椎間板  椎間板ヘルニアの典型的な症状は、腰痛や下肢痛で、繊維輪が髄核から飛び出してしまったときに、神経が圧迫されて起こります。腰痛や下肢痛の症状は激痛となるのが特徴で、下肢に痺れが起こることもあります。

 激痛のため、まっすぐ立ち上がることも身動きすることもできなくこともあります。

坐骨神経痛  坐骨神経痛は、繊維輪から髄核が飛び出したり、繊維輪と髄核が異常に膨張するために、神経紺が圧迫されて起こります。

 お尻や大腿の後ろ側、外側、足の甲など坐骨神経に沿って鈍い痛みと痺れがいつまでも継続的に起こります。

馬尾症状  脊髄の末尾に続く神経の束は馬尾神経と呼ばれ、この神経が椎間板ヘルニアで圧迫されると、腰痛や下肢の痛み、しびれ、および足首反射の消失などの症状が現れます。

 馬尾症状としては、頻尿や残尿感、尿失禁、便秘、排尿困難などの症状がでます。激しい場合には、膀胱や腸の機能が停止してしまうこともあります。また、男性では勃起機能不全、女性では会陰部の感覚が鈍くなったりします。

 しかし、椎間板ヘルニアで繊維輪から脱出した髄核は、やがて細胞に吸収されるため、3か月ほどで症状が消えるのが普通ですが、排尿障害や排尿困難が長引く場合には、生命の危険に及ぶこともあるため、早急にヘルニアを取り去る手術が必要です。

感覚障害  椎間板ヘルニアが重症になると、神経の圧迫が強くなり、下肢にさまざまな感覚障害が起こります。

 先ず、下肢が麻痺したり痺れが生じたりします。痛みや熱い冷たいという感覚がなくなり、下肢を手で圧迫しても感じなくなりこともあります。


 尚、同じ椎間板ヘルニアでも若年者の場合は、高齢者に比べて椎間板内圧が高いために、症状が強く現れる傾向があります。


原因は何ですか? ◆「腰椎椎間板ヘルニア」の原因や発症の仕組みをご説明します。
腰椎椎間板ヘルニア
が起こる二つの原因
 もともと椎間板は脊柱のクッションの役割を果たしているのですが、加齢により次第に衰えてきます。また、マラソンなどの激しい運動を何十年もの長期間にわたり継続的に続けていると、髄核が膨張して繊維輪を膨張させたり、髄核が繊維輪にできた亀裂を破って飛び出してしまうようになります。

 髄核・繊維輪の膨張(左の図)や、繊維輪からの髄核の飛び出し(右の図)により、神経が圧迫されさまざまな症状が起こります。

 椎間板ヘルニアは、高齢者には誰にでも起こりやすい症状ですが、若年者でもスポーツ選手などには起こりやすくなります。20~30代の働き盛りの若者でもしばしば起こります。
   ヘルニア1    ヘルニア2

診断はどうなりますか? ◆「腰椎椎間板ヘルニア」の検査方法や診断方法をご説明します。
腰椎椎間板ヘルニアの診断基準  腰椎椎間板ヘルニアの診断については下記に示すような「腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン策定委員会提唱の診断基準」というものがありますが、必ずしも完璧なものではないとされています。

腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン策定委員会提唱の診断基準
腰・下肢痛を有する。(主に片側、ないしは片側優位)
安静時にも症状を有する。
SLRテストは70°以下陽性(ただし高齢者では絶対条件ではない)
MRIなど画像所見で椎間板の突出がみられ、脊柱管狭窄所見を合併していない。
症状と画像所見とが一致する。

現実的な腰椎椎間板ヘルニアの検査  現実的は腰椎椎間板ヘルニアの検査は、エックス線検査やMRI検査、CT検査などで行われます。ヘルニアのタイプを診断するために椎間板造影や神経根造影などが行われることもあります。

現実の腰椎椎間板ヘルニアの検査
MRI核磁気共鳴画像検査  MRIでの腰椎椎間板ヘルニアのは、空間的解像度はCTスキャンよりは若干劣るのですが、まったく侵襲性がなく、容易にヘルニアの画像を得られるので、優れた検査方法です。

 ただし、MRIの検査では最大30分くらいは静止安静の状態にならないと良い画像が得られないため、腰椎椎間板ヘルニアで下肢の症状が激しく、激痛や激しい痺れを伴うような場合には、検査そのものが困難なこともあります。

CTスキャン検査  CT検査は、身体にX線を透過させ、身体各部の詳細な三次元画像を得る方法です。まったく侵襲性がなく、容易にヘルニアの画像を得られるので、優れた検査方法です。

 ただし、X線を使用するため、妊婦には使用することができません。

ミエログラフィー  ミエログラフィーは、腰椎から造影剤を脊髄腔に注入し、その造影剤が拡散する様子をX線で透視・撮影する検査法です。

 造影剤によるアレルギーの危険性や脊髄腔を穿刺するという侵襲性があり、この検査法はMRIなどの普及に伴い、あまり行われなくなりました。



治療はどうやりますか? ◆「腰椎椎間板ヘルニア」の治療方法をご説明します。
腰椎椎間板ヘルニアの治療方針  多くの場合、軽度のものでは特別な治療をすることなしに、安静にしているだけで時間の経過により軽快することも多く認められます。多くの場合に、ヘルニアは自然に縮小したり消滅することがあるからです。

 腰椎椎間板ヘルニアの治療は、先ずは安静を保ち病状の悪化をとどめながら、基本的には手術ではなく「保存的療法」と呼ばれる療法が採用されます。自然治癒力により症状の改善を待つという方法です。

 保存的療法には「安静」をはじめ、「装具療法」「薬物療法」「ブロック注射」、および「理学療法」などがあります。

 しかし、重症になれば、外科手術する以外に治療法がないのも事実です。

安静  激しい痛みがある急性期には、椎間板に負担をかけないような楽な姿勢をとり安静を保つことが必要です。そのため、仰向けや横向きになってベッドに寝るのが一番です。ベッドは硬い方がよく、柔らかい布団は禁物です。

 また、急性期にマッサージしたり、指圧などで刺激するのも症状を悪化させる危険があるので禁物です。この段階では温めるのもよくありません。

装具療法  剛性支柱が内臓されている腰椎コルセットを装着して、腰部を固定して支持補強することで腰への負担を軽減させます。

薬物療法  薬物治療は、激しい痛みを抑えることを目的に鎮痛消炎剤や非ステロイド系抗炎症役、筋弛緩剤、ビタミン剤、鎮静剤などを服用します。

 これらの医薬の副作用で胃腸障害がでることもあるため、胃腸薬も服用します。また、激痛のために我慢できないときは、痛み止めの座薬を用いることもあります。

ブロック注射  急性期の激痛を抑制する方法として、「硬膜外ブロック注射」や「神経根ブロック注射」などがあります。注射により激痛を抑えようとする療法です。

 脊髄は硬膜という膜で包まれていますが、そこに麻酔剤を注射することで痛みを抑えようとする療法です。お尻の割れ目の尾骨の上にある仙骨裂孔に注射針を刺し、そこから麻酔剤を注入すると、両下肢が温かくなり、だるさを感じるようになります。

 一回限り行う場合と、何回か続けて行う方法とがあります。

 麻酔薬が血液中に混入することがあり、そうなると頭痛や血圧上昇などの副作用が起こります。

ブロック注射法
硬膜外ブロック注射  腰から硬膜外にチューブを挿入し、局所麻酔剤にステロイド剤を加えて硬膜外腔に持続的に流し込み浸潤させます。激痛を伴う患者には確実な効果があります。

 入院し、3~4日ごとに1本づつ注射し、これを3~4回繰り返すことがあります。

神経根ブロック注射  X線で映像を見ながら腰の神経根に注射針を刺し麻酔します。注射針を神経根に直接刺し込むので瞬間的に痛みますがすぐ治まり、劇的な効果が現れます。


理学療法  安静を保ち急性期を過ぎて慢性期に入ると、いくつかの理学療法を行うことができるようになります。
理学療法の実際
腰椎牽引  牽引を行いますが、これは引っ張ることで椎間板ヘルニアを引き伸ばすのではなく、安静を保つためです。

温熱療法  痛みの激しい急性期には痛む部位を冷やすのがいいのですが、急性期を過ぎて慢性期になったら、温めるようにします。


手術療法  保存的治療で症状の改善がみられない場合、最終的な方法として手術療法があります。手術療法は、腰ではなく下肢に激痛があったり排尿障害があり、他の方法では改善できないときなどに、やむを得ず行うことになります。

 また、激痛ではなくても強目の症状が3か月以上持続する場合にも手術することがあります。

 椎間板ヘルニアの手術は、ヘルニアの起こっている患部を摘出する方法が主流となっています。手術法には「Love法」「レーザー治療法」および「内視鏡下ヘルニア摘出術」など多くの方法があります。

手術療法
Love法  Love法は、腰椎椎間板ヘルニアの最も古典的な手術法で、現在も主流の方法となっています。

 全身麻酔下で、背中を5~6センチ切開し、脊髄神経を圧迫し障害を起こしているヘルニアを目視下で切除し摘出します。

 手術時間は30分~1時間程度で、手術後の入院期間は1~3週間くらい必要です。また、背中の傷口を小さくするマイクロ顕微鏡下で行う「マイクロラブ法」もあり、この場合は7~10日ほどで退院できます。

レーザー治療法  ヘルニアが出現している椎間板中央部の髄核に、高出力レーザーを照射し蒸散させて椎間板内圧を減圧して、神経根を圧迫しているヘルニアを引っ込ませ、症状を軽減する方法です。経皮的髄核減圧手術と呼ばれています。

 手術は簡単で、手術時間も10分程度の短時間ですみ、入院の必要もなくほとんど傷も残りませんが、症状により効果が期待できないこともあります。また、費用は数十万円かかります。

内視鏡下ヘルニア摘出術  背中をわずかに切開して内視鏡を挿入し、内視鏡の画像をモニターしながら、はみ出ているヘルニアを切除・摘出する手術です。

 手術は全身麻酔下で行い1時間ほどで終了します。傷口も小さく2週間ほどで退院でき、一般に術後の経過も良好です。