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〔アナフィラキシーショック〕 |
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〔アナフィラキシーショック〕は、人体の免疫機構に備わった「抗原抗体反応」により引き起こされる「I型アレルギー反応」の一つです。 |
蜂に刺されたり、毒蛇に噛まれたりすると、人体の免疫反応は蜂毒や蛇毒に対しての抗体を作ります。 このような抗体ができる原因には、蜂毒や蛇毒だけでなく、食物や薬物でも起こることがあります。 原因となるアレルゲン物質には、ハチ毒・蛇毒・食物・薬物などがあります。アナフィラキシーは〔薬物過敏症〕などとも呼ばれることがあります。 |
蜂や毒蛇の攻撃の一度目は、人体内に抗体ができるだけです。
・胸部不快感 |
蕁麻疹やアトピー性皮膚炎、花粉症、気管支喘息などのアレルギー病では、その症状は皮膚や鼻、眼、気管支など身体の特定部位に出現するのが特徴です。 これに対して、アレルギー症の人が、特定のアレルゲン(抗原)食品を食べたりしたとき、皮膚の弱い部分に全身的にアレルギー症状が現れるものが「アナフィラキシー」です。 〔アナフィラキシーショック〕は、特に生命の危険を伴う重篤な状態となる、全身的に起こるアナフィラキシーを指しています。 「ハチ刺され」や「蛇噛まれ」「ハムスター噛まれ」などが有名で、その他にも「食物アレルギー」などでも起こります。 |
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1902年に、二人の学者アルフレッド・リチェットとポール・ポーティエとが、イソギンチャクの触手から毒素を抽出して、この毒素に対する免疫反応を賦与する目的でイヌに注射する実験を行いました。 1回目の注射をしても、イヌには何事もなかったのですが、2~3週間後に 2回目の注射をすると、イヌは嘔吐や出血性の下痢などの激しいショック症状を起こして死んでしまいました。 このことから、アレルギー反応のうちで、重篤で生命の危険を伴う反応のことを〔アナフィラキシーショック(ana-phylaxie)〕と呼ぶようになりました。 この言葉「ana-phylaxie」は、免疫で守られる防御状態「phylaxie」に対して、逆の状態を意味する接頭語「ana-」をつけた言葉として合成され、「非防御状態「ana-phyaxie」とされたのです。 |
アナフィラキシー症状は、アレルギー性と考えられる重篤な「呼吸困難」が発症した状態をいいます。 また、「蕁麻疹」をはじめ「呼吸困難」「全身紅潮」「血管浮腫(顔面の浮腫・むくみ、喉頭浮腫など)」のうちで、複数の症状が合わせて発現する全身的状態も該当します。 このような症状が現れるものの中で、アレルゲンが分かっていて「特異的IgE抗体」が明確なときは「アナフィラキシー症状」といい、特異的IgE抗体が明確でないときは「アナフィラキシー様症状」と区別します。 |
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アナフィラキシーショックは、急性アレルギー反応のひとつで、典型的な症状として、「蕁麻疹」をはじめとし、それも含め次のような状態を呈します。
・呼吸困難
この症状の出方は、原因となるアレルゲン(抗原)の摂取量などによっても大きく異なります。 |
アナフィラキシー症状を引き起こすものには、次のものなどがあります。
・蜂毒アレルギー
アナフィラキシー・アナフィラキシーショックは、原因となるアレルゲン(抗原)が体内に侵入して、身体に備わった免疫機構が過剰反応する、アレルギー反応によって起こりますが、アレルゲンと最初に接触した段階では何事も起こりません。 |
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人体には、体外から侵入してくる「非自己」を外敵として識別し、排除しようとするシステムがあり、これを「免疫機構」といいます。 人によって異なりますが、ある種の物質が人体内に侵入してくると、それを撃退すべく免疫機構が作用を開始します。 どのような物質に対して、このような反応を引き起こすかは人により異なりますが、例えば、「ソバ」や「カニ」「大豆」などごく普通の食品が原因になったりもします。 また、「蜂毒」や「蛇毒」に対しては、大部分の人にこのような反応が起こります。 その人にとって非自己と認識される物質が、体内に侵入してくると、第一回目の侵入では、見かけ上は何事も起こりません。 しかし、身体内部では、大きな変化が起きているのです。やがて、アレルギーを起こすことになる、アレルゲン(抗原)が体内に侵入すると、リンパ球の一種である「ヘルパーT細胞」の表面にある受容体がこれを認識します。 アレルゲン(抗原)の侵入を認識したヘルパーT細胞は、生活活性因子(サイトカイン)という物質を放出して、外敵の侵入をB細胞という細胞に伝達します。 これを受けたB細胞は、この抗原に対応した「IgE抗体」を産生します。そしてこのIgE抗体は、肥満細胞に結合して、「感作状態」という状態が成立します。 この「感作状態」とは、二度目に同じ抗原(外敵)が侵入してきたとき、すぐに撃退作用が開始できるような準備が整った状態なのです。 例えば、一回目にハチに刺されると、このハチ毒に対応して人体は感作状態となり、次に蜂毒が侵入してくると、すぐにこれを撃退する準備を整えるわけです。 このように既に「感作状態」が成立した後になって、同じアレルゲン(抗原)が二度目に侵入してくると、この抗原と既に感作済みの肥満細胞とが結合します。 すると肥満細胞は活性化されて、抗原を撃退するための「抗原抗体反応」が始まります。 風邪などの病原菌に対してなら、多くの場合、この抗原抗体反応による免疫反応が勝利し、病原菌を撃退して決着します。 しかし、蜂毒などに対してはこの戦いが簡単には決着しないで長引くことが多く、そうなると、過剰な抗原抗体反応(I型アレルギー反応)が起こってしまいます。 肥満細胞の中から、ヒスタミンやロイコトリエン、ブラジキン、セロトニンなどと呼ばれる多数の顆粒が放出されるのですが、これらの化学伝達物質には強い活性があり、血管拡張などさまざまな作用をもたらし、最終的に急性のアレルギー症状を引き起こします。
一例を挙げると、はじめてハチに刺されたり、ハムスターに噛まれたとき、これらの持つ毒がアレルゲン(抗原)となり、人体内では、これらの毒に対抗するための準備として、これらの毒に対する「IgE抗体」が産生され、肥満細胞と結合して「感作状態」が成立します。 |
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アナフィラキシーショックを誘発する原因物質には、一般の食品、薬品類があり、更に蜂毒や蛇毒など猛毒を持つ動物の毒類など多数あります。 食物によるアナフィラキシーでは、食物を食べた後や、医薬などを飲んだ後に、喉が詰まったり、唇が腫れたり、皮膚が発赤し痒くなったり、蕁麻疹が出たりします。 また、吐き気や腹痛が起こり、嘔吐や下痢症状が現れます。呼吸も苦しくなり、咳がでたり、ゼーゼーという喘鳴が聞こえるようになります。 アナフィラキシーの誘発原因となる食品や薬品、動物毒などには、次のようなものがあります。
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アナフィラキシーショックの診断は、次のような症状によって行われます。 しかし、通常はハチに刺されたなど、原因がはっきりしていることが多いので、直ぐに診断がつきます。
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アナフィラキシーは、アレルギー反応が過剰に起こるために発症しますので、体質の確認などで特に必要なら、一般のアレルギー関連の検査が行われます。 アレルギーの検査や診断については、「レルギーの検査」に詳細説明していますので、そちらも参照してください。 |
アナフィラキシーの治療には、ショックが起こっている場合の薬物療法による緊急対応と、体質改善などの根治治療とがあります。 最も重要なのは、ハチに刺されたときなどに起こるアナフィラキシーショック時の緊急対応です。 |
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アナフィラキーショックは、ハチ毒などの原因物質が体内に侵入して数分~15分くらいで突然激しく発症するので、最初の前駆症状や初期症状が出たら直ちに、医療機関で治療を受けなければ危険です。 アナフィラキシーショック治療の基本は、「循環不全対策」と気道狭窄による「呼吸不全対策」となります。 アナフィラキシーショックに対する治療薬の第一選択枝は、「エピネフリン」の皮下投与です。実はエピネフリンは日本ではアドレナリンとして知られる同じ物質です。 このエピネフリンには、「β-受容体刺激作用」があり気管支拡張作用、心拍出量増強作用がある他、「α-受容体刺激作用」により、全身の末梢血管収縮作用を発揮して全身のショック症状を改善する効果があります。 循環不全対策として、「ノルエピネフリン」「ドーパミン」を投与し、呼吸不全の改善には「アミノフィリン」の点滴静注を行うこともあります。 「ステロイド薬」や「抗ヒスタミン薬」は、効果がでるまでに数時間かかるので、救急用としては使えません。 しかし、遷延性や二峰性の後半の反応を予防するためにステロイドを使うこともあります。 「エピネフリン(商品名:エピペン)」は、救急救命用として「自己注射キット」が厚生労働省薬事食品衛生審議会で承認され使用できることになりました。 ハチに刺される恐れのある仕事などをする人は、このキットを携帯していればいざというとき安心です。 |
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アナフィラキシーはアレルギー反応で起こるので、「減感作療法」による根治治療が有効な場合があります。 アレルギーを引き起こす特定のアレルゲン(抗原)エキスを、強い皮膚反応や発作を起こさない程度の少量を注射し、徐々に注射量を増やします。 こうして、そのアレルゲンに対する身体の過敏性を鈍くする事で、アレルギー反応の発症を抑制する治療法です。 減感作療法はハチアレルギーでは特に有効とされていますが、この治療方法を長期にわたって継続する必要はあります。 |