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〔ALS:筋萎縮性側索硬化症〕


 筋萎縮性側索硬化症は、手足、喉、舌の筋肉や呼吸などに必要な筋肉が萎縮、筋力低下をきたします。

 随意運動が進行性に不可能になっていく神経変性疾患です。

 しかし、筋肉自体の病気ではなく、筋肉を動かし、かつ栄養を補給する運動神経細胞が死んでしまうために筋肉が痩せて筋力が弱くなる病気です。


 この病気は「ALS(Amyotrophic Lateral Sclerosis)」と呼ばれますが、発見者の名称をとって「シャルコー病」とも呼ばれます。

 また、この病気を患った米国の有名な野球選手の名をとって「ルー・ゲーリック病」とも呼ばれています。

 有名な宇宙物理学者であるホーキング博士がこの病気に罹っていることは有名です。この病気は筋肉を衰えさせますが、脳は筋肉でできていないので、彼の頭脳は依然として天才のままです。
 筋萎縮性側索硬化症は、非常に進行の速い病気で、発症すると3~5年で呼吸筋の麻痺により半数の患者が死亡するとされています。

 日本では、この病気は特定疾患に指定されている難病のひとつで、全国で7千人ほどの患者がいて、毎年人口10万人当たりひとりが新たにこの病気に罹っています。

 発症患者の男女比では、男性が多く女性の2倍ほどです。最も罹りやすい年代は40~60歳代です。

どんな病気ですか? ◆〔ALS:筋萎縮性側索硬化症〕とは、一体どんな病気なのかご説明します。
どんな病気ですか?

 ALS:筋萎縮性側索硬化症は、特定疾患に指定されている難病のひとつで、運動神経だけが急速に破壊され、発症から数か月~数年の間に全身が麻痺してしまう疾患です。症状が激しくなると、手足ばかりでなく、口や舌の筋肉、呼吸筋などまでもが麻痺するために自力では呼吸することも不可能となることがあります。発症すると半数近くの患者が3~5年で亡くなります。

 統計により数値は異なりますが、日本では4000~7000人くらいの患者がいると推定されています。患者数は少ないものの、働き盛りの40~50歳代の壮年期に発症することも多く、本人、家族ともが身体的・精神的・経済的に深刻な状況に追い込まれてしまいます。

 この病気に罹る男女比では、男性が女性の2倍ほど高くなっています。


どんな症状ですか? ◆〔ALS:筋萎縮性側索硬化症〕の症状をご説明します。
ALS:筋萎縮性側索硬化症の症状

 筋萎縮性側索硬化症は、多くの場合、筋肉が痩せ肘から先に力が入らなくなり、手指が使いにくくなって始まります。口がもとらなくなったり、嚥下障害の症状で始まることもあります。

 進行するに従い、箸がもちにくくなったり、水や食物を飲み込めなくなったり、呼吸することも困難となってきます。やがて、全身の筋肉が痩せて力が入らず起き上がることも歩くこともできなくなり、最終的には寝たきりになってしまいます。

 しかし、症状が進行しても、意識や感覚、知能は最後まで正常で、眼球運動障害や失禁もみられません。聴力が正常であっても言葉を発することができないので、会話が困難となります。

 このように、筋萎縮性側索硬化症では、重篤な筋肉の萎縮と筋力低下をきたし筋肉は動かなくなりますが、基本的に精神機能が衰えることはなく、筋肉以外の他の臓器に障害が及ぶことはありません。

 後に原因の項で何故そうなるのかという詳細をご説明しますが、筋萎縮性側索硬化症の症状には大きく分けて「下位ニューロン症状」「球麻痺症状」「上位ニューロン症状」および「陰性四微候」の四つがあります。これらの各症状を下表に示します。

 なお、筋萎縮性側索硬化症の症状は、発症すると進行が非常に速く、発症後3~5年の間に半数近くの患者が呼吸筋麻痺となり、自力で呼吸できなくなるるために死亡します。

下位ニューロン症状

 下位ニューロン症状というのは、下位ニューロンが障害され破壊されるために起こる症状をいい、多くの障害が現れます。

下位ニューロン症状
筋萎縮 四肢の筋肉が痩せ細ります。
筋力低下 力が入らなくなります。
攣縮・れんしゅく 手足がけいれんし、ぴくぴくするようになります。上記3つのような症状が、はじめは左右ばらばらに出はじめ、じきに左右対称にでるようになります。
猿手 手の親指の根元の筋肉のふくらみがなくなります。
鷲手 指が第一関節で曲がり鷲の足のようになります。
垂れ足・鶏歩) 足を引きずって歩くようになり、歩き方もぎこちなくなります。
廃用性萎縮 筋肉が使えなくなり、使われなくなった筋肉がますます痩せ衰えていきます。

球麻痺症状

 球麻痺症状は、球神経の破壊により起こる症状をいい、多くの障害が現れます。球麻痺とは、延髄の運動神経核の変性により、顔や喉の筋肉を動かすための一群の神経が麻痺することで起こる障害です。

 顔面・咽喉頭・舌の筋萎縮や、筋力低下をきたし、物が飲み込めなくなったり、言葉が不明瞭になったりします。球麻痺は食事や呼吸に困難を伴う直接生命に関わる症状で、酸素吸入など適切な対応が必要です。

球麻痺症状
嚥下障害 食物が飲み込みにくくなります。
構語障害 ろれつが回らなくなり会話が困難となります。
舌萎縮 舌が縮んでしまいます。
強制泣き・笑い 顔が勝手に泣いたり、勝手に笑ったりしているかのように見えるようになります。
開口不全 口が完全には開けなくなります。
流涎・りゅうえん よだれが流れ、止まらなくなります。

上位ニューロン症状

 上位ニューロン症状とは、上位ニューロンの破壊により起こる症状をいい、多くの障害が現れます。上位ニューロンの障害では、四肢の筋萎縮や球麻痺、強制泣き・笑い、の他に腱反射などの亢進が見られます。

上位ニューロン症状
痙性・けいせい 四肢の筋肉の緊張が高まります。
腱反射亢進  アキレス腱を叩くと、足が踏みつけるように反応します。足の裏の外側をなぞると、親指が反り返るバビンスキー反射と呼ばれる現象が起こります。更に、はさみ歩行などの症状も現れます。

 下位ニューロンの機能として、足の膝の丸い部分の下を軽く叩くと、膝が跳ね上がる「膝蓋反射」があり、脚気の検査に使われる方法として有名です。通常なら上位ニューロンが下位ニューロンを制御していることでこのような跳ね上がり現象は顕著にはでませんが、上位運動ニューロンが破壊されると、下位ニューロンは勝手に動いてしまい、跳ね上がり反射現象が強く現れるようになります。

陰性四微候

 陰性四微候というのは、筋萎縮性側索硬化症では、筋肉は大きく障害されるけれども、五感は障害されないという特徴があることをいいます。通常、感覚障害、眼球運動障害、膀胱直腸障害、褥創という4つの症状は、末期まで出現することはありません。

陰性四微候
感覚障害 感覚(いわゆる五感)は障害されない
眼球運動障害 目の動きは障害されない。眼筋麻痺はおきません。
膀胱直腸障害 排泄は障害されず、失禁などの膀胱・直腸障害はありません。
褥創(じょくそう) 床ずれ・褥創はできません。


原因は何ですか? ◆〔ALS:筋萎縮性側索硬化症〕の原因や発症の仕組みをご説明します。
ALS:筋萎縮性側索硬化症の原因

 運動するための神経系統である運動神経は「脳の中枢神経」「上位ニューロン(錐体路)」および「下位ニューロン(脊髄内の前角細胞という細胞から走行し筋肉を支配する運動性末梢神経)」という三段階の神経細胞でできていて、脳からの指令はこの三段階を経て伝わり、最終的に身体を動かしています。

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)では、上位運動ニューロンから下位ニューロンへ指令を伝達する経路に病的な変化が起こり破壊されることで運動麻痺障害が起こります。

 筋萎縮性側索硬化症は、運動ニューロンのみを障害する疾患であるため、別名「運動ニューロン病」とも呼ばれています。筋肉は動かなくなりますが、精神機能は正常のままなのが大きな特徴です。また、内臓などの機能にも問題は起きません。

 この病気の真の原因については、多くの説が提唱されていますが確たるものは存在しません。遺伝性と思われるものが5~10%ほど存在するとされています。現時点では有効な治療方法は見つかっておりません。

原因仮説

 筋萎縮性側索硬化症の原因仮説には「ウイルス説」「中毒説」「神経栄養因子欠乏説」「自己免疫性説」「グルタミン酸過剰説」および「フリーラジカル説」などがあります。ここで示すように、運動神経が変性する病理機序に多くの説はありますが、現状では決定的なものはありません。

筋萎縮性側索硬化症の原因仮説
ウイルス説  ポリオウイルスが運動神経障害のみを引き起こすことから、筋萎縮性側索硬化症もスローウイルス感染によるのではという仮説ですが、それを証明できる根拠はありません。
中毒説  何らかの環境由来性有毒物質が原因ではないかとの仮説です。グアム島や日本の紀伊半島などで発生頻度が高かったことから、その土地特有な食物や飲料水に含まれる金属などが原因との説ですが、特別な根拠にはなっていません。
神経栄養因子欠乏説  神経栄養因子は、神経細胞の生存に必要な生体物質の総称ですが、何らかの神経栄養因子の欠乏により運動神経細胞が変性をきたすのではないかという仮説です。
自己免疫性説  自己抗体ができて、運動神経を攻撃し変性壊死を生じさせるというもので、ALS患者の一部に単一クローン性高ガンマグロブリン血症を伴う患者が存在することから、自己免疫性疾患ではないかとする仮説です。

 しかし、自己免疫性疾患の特効薬であるステロイド療法や免疫グロブリン療法は、ALSにはまったく有効ではありません。
グルタミン酸過剰説  グルタミン酸が興奮性の神経伝達物質として作用し、運動ニューロンを過剰摂取して壊死を起こし、運動神経細胞の変性をきたすとする仮説です。

 現在、この仮説に基づいてマウス実験から多くのことが分かり、治療薬リルゾールが開発され認可され、臨床治験が行われています。
フリーラジカル説  家族性ALSの症例の20%ほどの患者に、特定の遺伝子の変異が見つかっています。この遺伝子は、フリーラジカルと呼ばれる細胞損傷物質の中和機能を有する蛋白質合成指令遺伝子で、この遺伝子の異常により運動神経が異変をきたすという仮説です。

 遺伝性ALS患者の20%は、全体のALS患者の1%ほどにしか過ぎないので、家族性でない患者の原因とは考えられません。


診断はどうなりますか? ◆〔ALS:筋萎縮性側索硬化症〕の検査方法や診断方法をご説明します。
ALS:筋萎縮性側索硬化症の診断

 筋萎縮性側索硬化症の診断は、病歴の詳しい調査と、筋萎縮、線維束性収縮の分布などによる神経学的診察により行われます。

ALSの診断方法
身体所見  ALSであれば、線維束性収縮があります。他の所見も伴いながら、特に上腕と前胸部の筋肉に認めることが多くあります。

 反射の出現の仕方で、上位ニューロン障害か下位ニューロン障害かを区別できます。ALSの初期には反射が亢進し、症状が進行し筋萎縮が進むと反射は低下してきます。上位ニューロンの障害が強くなるとバビンスキー反射が出現します。

 徒手筋力検査で筋力の低下が認められます。上位ニューロン障害があると筋萎縮がみられず廃用性萎縮が見られます。下位ニューロン障害があると早期から高度な筋萎縮がみられます。

 ALSの陰性徴候である「感覚障害」「眼球運動障害」「膀胱直腸障害」および「褥瘡」が存在しないことが重要です。これらの症状が存在するなら、ALSではない可能性が高くなります。

筋電図検査 神経の障害が疑わしい部位で、電位の振幅が大きくなり、多相性電位が現れます。

神経伝導検査  末梢神経伝導速度、感覚神経誘発電位を調べます。運動線維のみで活動電位が低下し、伝導速度は運動線維・感覚線維ともに正常であることがALSの特徴です。

画像診断  MRIでの画像診断で脊髄の疾患がないか確認します。

脊髄液検査・血液検査  HTLV-I関連脊髄症(HIM)ではないか確認します。HAMなら抗HTLV-I抗体が検出されます。


 ALSと同様な運動障害を引き起こす原因には、筋疾患や脊髄疾患など多くの疾患もあるため、これらの疾患との鑑別診断が欠かせません。

鑑別を必要とする主な疾患
主な疾患例  変形性頚椎症
 HTLV-1関連脊髄症(HIM)
 脳・脊髄の腫瘍
 脊髄動静脈奇形
 ALS以外の運動ニューロン疾患



治療はどうやりますか? ◆〔ALS:筋萎縮性側索硬化症〕の治療方法をご説明します。
治療方針

 現時点では筋萎縮性側索硬化症の原因ははっきりせず、この病気に特効的に効果のある根治を期待できるような療法・治療方法は開発されていません。そのため、現在、行われている療法は基本的に症状に応じた対症療法が主体となります。

 主に米国において、この病気のさまざまな治療法が考案されていて、それに基づく治療薬が開発されその有効性が検討されています。

 唯一、グルタミン酸放出抑制剤の商品名リルテックという医薬が、この病気の進行を遅らせる効果があることが分かり、日本では健康保険の適用になりました。

対症療法

 ALSに対する対症療法は、栄養管理に努め、対症的に治療が行われます。具体的には、痛みに対するもの、精神的不安などからの不眠に対するもの、呼吸困難に対するもの、嚥下障害に対するものなどです。

ALSの対症療法
痛みに対する対症療法  ALSの進行に伴って起こる痛みに対しては痛み止めの服用や、適度なリハビリテーションが行われ有効です。
不眠症  ALSの病気に起因する精神不安からの不眠症に対しては、睡眠薬が処方されます。
呼吸困難  呼吸困難には、鼻マスクでの非侵襲的な呼吸の補助や気管切開による侵襲的な呼吸の補助が行われます。呼吸筋麻痺に対して、人工呼吸器を装着することもあります。
嚥下障害  飲食物を飲み込むことができない嚥下障害に対しては、症状の程度により次のような方法が使われます。摂食・嚥下の仕方に工夫します。

<自分で噛むことができるとき>
 ・食物を柔らかくしたり、淡白で水分を多くしたり、冷たいものとします。
 ・食物は少量ずつ口に入れて嚥下する。
 ・顎を引いて嚥下する。

<症状が進行し、自分で噛めないとき>
 ・お腹の皮膚から胃に管を通し、流動食を補給します。
 ・鼻から食道、胃と管を通し流動食を補給します。
 ・点滴による栄養補給をします。

グルタミン酸放出抑制剤

 根治できる治療薬はないものの、グルタミン酸放出抑制剤のリルゾール(商品名:リルテック)が、この病気の進行を抑制する効果が認められ、健康保険が認可適用されるようになりました。

予後

 この病気は常に進行性で、一度発症すると症状が軽くなることはありません。発症開始した身体の部位とはかかわりなく、やがては全身の筋肉が侵されは解されて、最終的には呼吸筋も機能しなくなり、大部分の患者は死を迎えることとなります。

 人工呼吸器を使用しないなら、発病後3~5年で亡くなるのが普通ですが、経過がゆっくりで10年くらい大丈夫な人もいます。