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健康用語

〔ICU症候群〕


 重篤な病気や重大な怪我の治療を行うとき、患者が生命の危険に瀕しているときに「ICU:集中治療室」と呼ばれる特別な部屋で治療を行うことがあります。

 大規模な救急病院なら必ず備わっている部屋で近代的な救急医療設備と優れた医師や看護師が24時間体制で対応します。

 重篤な急病や大怪我などで救急車に乗った患者は、多くの場合、集中治療室(ICU)で治療を受けることになります。


 集中治療室が備わっている大病院なら、近代的な医療機器や治療機器が完備されていて、最も充実した治療を受けられるからです。

 しかし、緊急手術が済んだ患者が目を覚まして、自分がICUにいると分かったとき、そんなに命が危ない状況なのかという気持ちになることが多いのです。
 数日してもICUから一般病室に移動できないと、もう死ぬのではないかという不安と心配で、不眠になったり、もう治らないのではないかという幻覚や妄想を抱くようになります。

 これが〔ICU症候群〕とか〔ICU精神病〕と呼ばれる病気です。

どんな病気ですか? ◆〔ICU症候群〕とは、一体どんな病気なのかご説明します。
どんな病気ですか?

 重篤な病気や重大な怪我の治療を行うとき、患者が生命の危険に瀕しているときに「集中治療室」と呼ばれる特別な部屋で治療を行うことがあります。集中治療室は英語では「ICU(Intensive Care Unit)」と呼ばれます。

 ICU:集中治療室を備えているのは主に医療専門の大学に付属する救急病院だったり、大規模病院だったりしますが、そこでは呼吸や循環、代謝その他の重篤な患者を24時間体制で治療管理する体制が整えられています。

 ICUでは、現代医学の粋を集めた最新鋭の設備が完備され、医療経験や技術に優れた医師や看護師がてきぱきと救命医療を行います。

 救急医療のために集中治療室で手当てを受けた患者は、手術後に自分の置かれている状況を理解し、ICUで対応しなければいけないほど重篤なのかと思うようになります。そして、このまま死ぬのではないかなどと精神的に不安定となり、不眠や幻覚、妄想などの精神障害を生じてきます。これが「ICU症候群」あるいは「ICU精神病」です。


どんな症状ですか? ◆〔ICU症候群〕の症状をご説明します。
ICU症候群の症状

 何らかの重篤な病気や大怪我などで生命の危険がある患者は集中治療室で、緊急の手術や治療を受けるのですが、手術が終わり、目覚めてみると自分がICUの部屋に入っていることを発見します。

 顔には酸素マスクが取り付けられていて、腕や身体からはいくつもの機器に向かってケーブルが接続されています。目の上の点滴装置から液体が腕に吸い込まれていく状況が目に映ります。周囲には気ぜわしく動き回る医師や看護師がいて、冷たい感じのブラウン管上には心電図装置のような繰り返し画像が時々刻々新しい情報を表示しています。

 このような場面に直面して、患者は自分が今、集中治療室で手当てを受けていることに気づき、そんなに大変な容態にあるのかとショックを受けてしまいます。

 ブラウン管に映っている、この画像が直線になったり、消えたりしたら、自分の生命が終わるときなんだと感じてしまうのです。このような不安な状態が2~3日続くと、精神的に不安定となり、眠れなくなってしまいます。ようやく眠れたかと思うと今度は金縛りのような夢を見たり、目が覚めても幻覚が見え、自分はもうじき死ぬんだという妄想を抱くようになります。

 このように、集中治療室で一種の拘束状態にされ、いろいろな測定機器に取り囲まれて発症する「ICU症候群」の典型的な症状は、不眠、幻覚、妄想、高度な不安、錯乱状態、抑うつ状態などの精神的障害です。

 病気でICUに入院した患者では、自分の病気はとんでもない伝染病であり、家族などに移したら大変だと勝手に思い込んでしまうことがあります。見舞いに来た家族が自分に触れるのを極度に嫌い、マスクを着用するように強要します。家族に感染させないようにと過剰な心配をしているのです。

 手術の麻酔から覚めICUに数日いる間に、奇妙な夢をみたりすることがあります。患者自身は、それが夢なのか現実なのか分からなくなるのです。夢の中では、自分がよく知っている人ばかりがでてきて、自分に危害を加えたり、殺そうとするのではないか、毒入りの点滴をしているのではないかなどと被害妄想を抱くのです。このような状況から逃げ出そうと、点滴を抜こうとしたり、酸素マスクを外したりしてしまいます。自分の医師すら信用できない、すべての人が敵だという妄想をも抱きます。

 ICU症候群には、どちらかというとプライドの高い人の方がなりやすいともいわれますが、真偽のほどは確かではありません。


原因は何ですか? ◆〔ICU症候群〕の原因や発症の仕組みをご説明します。
ICU症候群の原因

 ICUで手当てを受ける患者は、身体のいたるところから医療計測機器へのケーブルが接続され、腕には点滴針が刺され、顔には酸素マスクが装着されるなど、がんじがらめの状態におかれます。

 身体的な拘束状態で身動きもできない上に、ICUの部屋は証明が異様に明るく、いろいろな計測装置がピッピッという無機質で単調なリズムを響かせていると、今何が起きているのか不安になり、睡眠障害が起こることがあります。

 ICUにいるのは、一般的に症状が非常に重い患者なので、家族との面会すら許されないこともあり、不安な気持ちが一層高まります。

 このように、これからどうなるかという不安と誰にも会えない孤独感などから、ICU症候群特有の症状、高度の不安・焦燥・せん妄・錯乱・抑うつ状態などがおこります。ICUで治療を受ける患者の10~20%の人にこのような精神障害が起こるといわれています。


診断はどうなりますか? ◆〔ICU症候群〕の検査方法や診断方法をご説明します。
ICU症候群の診断

 ICUに入院中で、ICU症候群特有な不眠や幻覚、妄想、高度な不安、錯乱状態、抑うつ状態などの症状が現れてくれば、ICU症候群だと診断されます。


治療はどうやりますか? ◆〔ICU症候群〕の治療方法をご説明します。
ICU症候群の治療

 ICU症候群に陥る患者は、心配や不安のために十分な睡眠がとれなくなっているので、先ずは向精神病薬などの薬物療法で睡眠を取らせます。

 病状について不安が募る場合は、できるだけ安心できる丁寧な説明をします。

 日常の同居家族が多い患者がICUに入ると、ICU症候群に陥る場合が多いとされ、孤独になった場合の一種の弱点があるものと推測されています。このような患者に対しては、手術前、手術後ともにできるだけ家族と面会の機会を多くとることが、ICU症候群に陥らない予防策あるいは改善策となります。  緊急事態を脱したら、できるだけ早期に一般病棟に移動させることが患者本人を安心させることに繋がります。