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健康用語

〔Kartagener症候群〕


 〔Kartagener症候群〕は、その発音の仕方から、日本では〔カルタゲナー症候群〕とか〔カータジェナー症候群〕などと呼ばれる症候群です。

 この病気は、次のような三主徴を特徴とする先天性疾患として知られています。

 ・〔気管支拡張症〕
 ・〔慢性副鼻腔炎〕
 ・〔内臓逆転症〕


 この疾患の正式名は〔先天性的纖毛細胞發育不全〕という難しい名称になっています。

 1904年に〔気管支拡張症〕〔慢性副鼻腔炎〕および〔内臓逆転症〕の3症状が合併した疾病が Siewert により最初に報告されました。
 その後、1933~1936年の間に、Kartagener がその合併症の詳細を症候群として報告したことから、今日では〔Kartagener症候群〕と呼ばれるようになりました。

 この疾患の正式名称からも分かる通り、人体に存在する繊毛運動機能が障害されることで〔気管支拡張症〕や〔副鼻腔炎〕〔内臓逆転症〕などが起こる〔先天性疾患〕です。

どんな病気ですか? ◆〔Kartagener症候群〕とは、一体どんな病気なのかご説明します。
どんな病気ですか?

 先に述べたとおり、Kartagener症候群は、気管支拡張症、内臓転位症、および慢性副鼻腔炎を三主徴とする先天性の繊毛運動機能障害です。

 カータジェナー症候群は、繊毛不動症候群(Immotile Cilia 症候群)と呼ばれる症候群の中のひとつの部分症で、鼻粘膜、気管気管支の組織診断(生体検査)から、患者の繊毛のダイニンアームの欠損が見出されている。ダイニンアームとは鞭毛運動や繊毛運動を引き起こす固有エネルギー源のことをいいます。

 簡単にいえば、繊毛の運動性を喪失する常染色体の劣勢遺伝病で、ダイニンの合成ができないために、繊毛の運動性が喪失するために、繊毛運動が重要な役割を果たす気管や臓器に問題を引き起こします。気管支拡張症、慢性副鼻腔炎、内臓逆位をはじめ、精子が動かないために男性不妊症などの原因となります。

 カータジェナー症候群は、常染色体劣勢遺伝の形式をとりますが、その遺伝子を持つ男性兄弟などには、男性不妊症が現れます。


どんな症状ですか? ◆〔Kartagener症候群〕の症状をご説明します。
Kartagener症候群の症状

 カータジェナー症候群が先天性の繊毛運動機能障害であるために、繊毛が重要な働きをする器官や臓器に障害が起こります。

 主な疾患には「気管支拡張症」「副鼻腔炎」「内臓逆位」および「男性不妊症」などがあります。これらの疾患はいずれも、人体に備わった繊毛運動が正常に機能しないために起こる疾患です。

 また、臭覚低下や伝導性聴力低下をみることがあります。


原因は何ですか? ◆〔Kartagener症候群〕の原因や発症の仕組みをご説明します。
Kartagener症候群の原因

 カータジェナー症候群の発症原因は、繊毛不動症候群の中の一つの部分症であって、繊毛の運動性を喪失する常染色体の劣勢遺伝病です。鞭毛運動や繊毛運動を引き起こすべき固有エネルギー源であるダイニンアーム(ダイニン腕)が欠損しているために、全身において繊毛運動が活躍すべき繊毛器官の運動機能障害をきたします。

 では、何故ダイニンアームの合成がうまくいかないかというと、それは先天的な遺伝病により、これを支配する常染色体に異常があるからです。疫学的には常染色体劣性遺伝による病気です。先天的、遺伝的疾患であるため、同一家系に発症することが多い疾患です。この疾患は日本は稀ですが欧米では多いといわれています。

 繊毛器官での運動機能障害の典型的な例が「気管支拡張症」「慢性副鼻腔炎」および「内臓逆位」であり、その他に重要なものとして「男性不妊症」があります。

カータジェナー症候群による疾患の発症原因
気管支拡張症  カータジェナー症候群の本態は繊毛機能の異常であり、そのために発症する典型的な障害のひとつが「気管支拡張症」です。

 健常者では、外部から上気道に侵入してくる病原菌を繊毛の機能で体外へ排泄しようとするのですが、カータジェナー症候群患者では繊毛がうまく機能しないために、うまく病原菌を排除することができません。

 このように細菌感染しやすい気管支では、病原菌の排除が困難で炎症を繰り返すと壁がもろくなり気管支拡張症となるのです。

慢性副鼻腔炎  鼻の粘膜にも細かいミクロの繊毛があり、この繊毛運動によって鼻の中に侵入してくる異物や細菌などを防御するのですが、カータジェナー症候群の患者では、この繊毛機能がうまく働かないために、慢性的な副鼻腔炎を起こしやすくなります。

 カータジェナー症候群患者に起こる慢性副鼻腔炎は、あくまでも遺伝的な家系に特有な問題として起こる疾患であり、現象は似ていてもこれはアレルギー性鼻炎とは全く異なる病気です。

内臓逆位  卵子と精子が結合して人の胚が最初に生じるとき、胚は左右対称にできます。その後細胞分裂による発生途中の非対称になる過程において、単繊毛と呼ばれる繊毛が重要な役割を果たします。単繊毛は一種のプロペラのようなもので、一定方向に回転し、心臓などの臓器の生成に関与します。

 カータジェナー症候群の家系では、先天的に繊毛機能不全があるために、この単繊毛がうまく機能せず、たとえば、本来なら左の胸に作られるべき心臓の位置がランダムに右にできたり、左にできたりするのです。このために、カータジェナー症候群の患者は右の胸に心臓を持つ「右胸心」という内臓逆位を発症するのです。

 ここで、本論とは関係ないのですが、単繊毛が何故、右回りに回転するのかは、単繊毛を構成するアミノ酸の本質的な性質にあるとのことらしいです。何やら宇宙の本源、物質の究極の法則に関係するパリティ保存則の破れと関係あるとかいう話です。

 心臓の位置は、発生途中でランダムに決まるために、カータジェナー症候群の血縁者の中でも、心臓が右にある人もいれば、通常と同じ左にある人もいます。発生段階で単繊毛がうまく働かなければ、心臓が右にできるか左にできるかはランダムに決まるからです。

男性不妊症  精子は繊毛によって移動し、卵子との結合を果たすのですが、カータジェナー症候群の患者では、精子の繊毛もうまく機能しないために、運動することができません。このために男性不妊症が発症するのです。



診断はどうなりますか? ◆〔Kartagener症候群〕の検査方法や診断方法をご説明します。
Kartagener症候群の診断

 カータジェナー症候群は先天的な繊毛運動不全により生じる疾患であり、鼻粘膜や気管気管支粘膜の生体検査、あるいは精子繊毛の透過型電子顕微鏡による観察で、この症候群に特徴的な超微細構造上の異常が観察されることで、この症候群であると確定診断されます。


治療はどうやりますか? ◆〔Kartagener症候群〕の治療方法をご説明します。
Kartagener症候群の治療

 この疾患の根本原因が遺伝性疾患であるため、今のところ根治療法は存在しません。現状では、合併してくる病気に対しての対症療法が主体で、主に薬物療法が行われます。

気管支拡張症の治療

 気管支拡張症は、繊毛不動症のために気管支が非可逆的な拡張をきたしたもので、気管支の浄化作用が低下して、気管支炎や肺炎に罹りやすく、持続的に咳が出て、黄緑色の痰がや血痰、喀血が出現する病気です。ときに、発熱を伴い、感染が拡がると呼吸困難になることもあります。

 気管支拡張症は、最近では胸部CT検査で診断するのが普通です。

 治療の基本は、気道のクリーニングであり、気管支内に痰を溜めないように、痰を切る内服薬や、痰が出やすくなる体位をとる体位ドレナージ、胸部軽叩打法を行います。

 感染対策として、気管支炎や肺炎を合併し、痰の量が増え、発熱がみられるときは、抗生物質の投与や、注射で対処します。

 血痰や喀血がひどいときは、止血薬による治療も併用します。それでも喀血が治まらないときは、止血剤注射を行う他、気管支鏡での監視下で、出血している気管支に直接止血剤を注入することもあります。

 出血が極めて重度のときには、大腿部動脈から出血している動脈血管に対して、カテーテルを挿入し、その動脈血管を塞いでしまう「気管支動脈塞栓術」を行うこともあります。

慢性副鼻腔炎の治療

 慢性副鼻腔炎は、通常「蓄膿症」と呼ばれるもので、副鼻腔に炎症が起き、膿汁の副鼻腔内の貯留、炎症性の粘膜肥厚などをきたし、頭重感、頭痛、鼻汁、鼻づまり、副鼻腔付近の鈍痛などの症状がでます。

 慢性副鼻腔炎の診断は、視診により副鼻腔からの膿を確認する他、副鼻腔CT画像診断やMRIでの画像検査で行います。

 治療法には「保存療法」と「手術療法」とがあります。

 保存療法は、炎症をおこしている粘膜に対してのネブライザー治療を行うか、内服薬を用いて行います。細菌除去には抗生物質を使用し、膿の排泄をよくするためには蛋白分解酵素薬を使用します。また、炎症を抑え痛みを緩和するためには消炎鎮痛剤などを用います。

 手術療法では、内視鏡を用いて副鼻腔の出口を鼻の中に大きく開く通路をつくる手術を行います。これにより、副鼻腔内に膿が溜まらずすぐに排泄されるようにします。

内臓逆位の治療

 内臓逆位の典型的な症例は、健常者なら左側にある心臓の位置が右側に存在する「右胸心」ですが、心臓の位置が左右逆転しているというだけのことで、日常生活にも、医療上も特別な問題はありません。なんらの治療を必要としません。

男性不妊症の治療

 カータジェナー症候群による男性不妊症は、射精された精子の繊毛機能が不十分なために、卵子まで到達できないことにより起こります。

 健常者の場合、1回の射精で放出される精子の数は4000万個ほどですが、それらの精子が卵管内を移動し卵子周辺まで辿りつけるのは、わずか100万分の1程度の数十個ほどしかありません。精子に繊毛機能障害があると、精子は一つとして卵子まで到達できないのです。

 このため、普通の性交渉では、精子が卵子と巡り合うことができず妊娠することが不可能となっています。

 精子が存在するなら、それを微細な針で吸引し、この針を卵子の細胞内に挿し込み、精子を卵子の細胞質内に直接注入する「卵細胞質内精子注入法(ICSI)」という方法があり、男性不妊症の極めて有効な治療法となっています。

 この方法は顕微鏡下で行われることから、通常は「顕微授精」とも呼ばれています。