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形成外科のもともとの発祥は、第一次大戦の時代に顔面に傷を負う多くの負傷兵の治療を行い、傷が治るだけでなく、できるだけ元の状態に復帰することを目指した治療法に由来します。 形成外科の範疇には、〔コスメティック〕や〔エステティック〕、更には〔再建外科〕と呼ばれる分野も含まれ、身体組織の欠損や変形に対して、各種の自家組織移植や人工組織を体内に埋め込むことによる変形修復をはかることも含まれています。 形成外科手術では、患者の状況により皮膚科学や美容外科学、整形外科学、耳鼻咽喉科学、外科学と連携し治療に当たることも多くあります。 実際の形成外科で行われる手技や手術法には、次のような方法があります。 |
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◆〔形成外科〕とは、どんな美容術なのかご説明します。 |
形成外科の美容術 |
形成外科(plastic surgery)は、先天性あるいは事故などにより引き起こされた身体の外表面に存在する形態的、機能的の醜状変形や異常、あるいは精神的障害の原因となるような異常を、外科的手段で本来の健常者と同様な状態に修復し、社会復帰をはかることを目的とする診療科です。 形成外科の範疇には、〔コスメティック〕や〔エステティック〕も含まれています。また、いわゆる〔再建外科(reconstructive surgery)〕も含まれ、身体組織の欠損や変形に対して、各種の自家組織移植や人工組織を体内に埋め込むことによる変形修復をはかることも含まれています。 また、最近では微小血管外科(microangional surgery)が導入されたことで、各種組織の遊離複合移植や頭蓋顎顔面の各種先天性異常および外傷後の変形の修復、再建など遠隔部から行えるようになっています。 形成外科手術では、患者の状況により皮膚科学や美容外科学、整形外科学、耳鼻咽喉科学、外科学と連携し治療に当たることも多くあります。 |
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◆〔形成外科〕の由来・歴史についてご説明します。 |
形成外科の由来・歴史 |
形成外科(corrective plastic surgery)の領域には、コスメティック(cosmetic)およびエステティック(esthetic)が含まれる他、身体の組織欠損や変形に対して、各種の自家組織を移植したり、人工物を体内に埋め込んだりすることで変形を修復する〔再建外科(reconstructive surgery)〕も含まれます。 「corrective plastic surgery」の日本語訳として、〔成形外科〕あるいは〔復形外科〕と呼ばれた時期もありましたが、多くの議論の末に、現在では〔形成外科〕と命名されています。 尚、形成外科のもともとの発祥は、近代の戦争に起因しています。第一次大戦の時代になって、戦車や戦闘機が出現し兵器も機関銃をはじめ大型の大砲や榴弾砲が使われるようになり、兵士は塹壕を掘り進めながら戦うようになりました。 塹壕戦では、兵士は顔を出して攻撃するために、身体は守られても顔を負傷する可能性が格段に増えるようになったのです。西部戦線でのイギリス軍の軍医、ハロルド・ギリスは、戦友たちの顔面の負傷を観察し問題を認め、本国に帰国後、軍病院に専用病棟を設置して専門の治療を開始しました。 当初は、顔面創傷を他の部位の傷と同様に縫合治療するだけでしたが、これでは顔面に引きつれなどの変形が残る状態でした。その後、顔面組織を本来の状態に復元すべく、皮膚移植法など多くの医療技術が開発され、現在の形成外科の分野が成立することになったのです。 |
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◆〔形成外科〕の方法についてご説明します。 |
縫縮(ほうしゅく) |
顔面にあるほくろやあざなどを切除した場合、あるいは外傷などで皮膚に組織欠損が生じた場合、通常は縫縮(ほうしゅく)法で修復することになります。 この縫縮とは、縫い縮める方法なので、周囲に縮めるだけの組織の余裕がないとできません。腹部などでは周囲皮膚組織の余裕がたっぷりあるのでかなり大きな面積の縫縮でも容易ですが、頭皮や顔面では縫い縮められる量は少なくなります。 大きく縫縮できない場合には、皮膚移植や皮弁、ティッシュー・エキスパンダーなどの方法が必要となります。それらの方法にもいろいろな欠点がありますので、縫い縮められるものは、できるだけ縫縮したほうがよい結果となります。 縫縮した場合、完全に傷跡を消すことはできませんが、できるだけ目立たないようにする手術上の工夫がなされます。縫縮する傷の方法を本来の皮膚のしわができる方向に合わせるなどです。また、皮膚の深い部分である真皮を縫合し、傷の端と端を縫い合わせ、糸の端は傷の中に埋め込みます。 縫縮の跡は、徐々に線維組織が蓄積し傷口が補強されていき、1~2か月位の時点では線維組織がちょっと目立ちますが、半年~1年くらいすると線維組織は自然に吸収され通常組織に近くなり目立たなくなります。 |
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皮膚移植(植皮) |
植皮とは、皮膚移植と呼ばれている治療法のことで、通常は自分自身の体の他の部分から皮膚を剥ぎ取り採取して、治療すべき皮膚欠損部分に移植する方法です。 全身やけどなどで免疫力が極度に低下しているなどで皮膚の採取が困難な場合などでは、両親などの他人の皮膚を移植することもあります。また、動物のコラーゲンから作製する人工真皮を用いたり、自分の皮膚から小さな部分の皮膚を採取し、大きく培養して用いる方法も研究されています。 移植する皮膚は、移植する身体皮膚の部位により色調や質感が異なるので、それを考慮して最適な部位より採取されます。皮膚を移植すると、通常は4日ほどで血液が流れるようになり、その後、数日以内に移植された身体皮膚の一部として機能するようになります。しかし、完全に皮膚に生着し同化するまでには数か月間が必要です。 植皮の対象となる皮膚の状態は、先天的なあざなどの欠陥や、外傷による皮膚損傷、傷あとの引きつれなどで、人工物が露出した部位や骨、腱については、植皮することはできません。 一般に皮膚は、表皮と真皮の二層からなりますが、そのどの部分を移植するかにより〔全層植皮〕と〔分層植皮〕とに分けられます。
皮膚移植の手術方法は、皮膚を移植される部位の準備と、皮膚を採取する部位の準備の両面から始まり、皮膚の採取、植え付け、養生となりますが、その様子は次のようになります。
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皮弁移植 |
実際に生きている血流のある皮膚・皮下組織や深部組織を大きく切り取ったものを皮弁といいます。皮弁には筋肉が付着した状態での筋皮弁、筋膜が付着した状態での筋膜皮弁などの改良も進んでいます。皮弁を採取した部分は、うまく縫い付けて目立たなくしますが、多少の傷は残ります。 顔面のあざの除去・修正や悪性腫瘍の除去手術後などで、皮膚のダメージが大きい場合の皮膚の欠損部を修復するために、皮弁を移植して手術しますが、これを〔皮弁移植〕と呼んでいます。 皮膚移植の手術方法は、皮膚を移植される部位の準備と、皮膚を採取する部位の準備の両面から始まり、皮膚の採取、植え付け、養生となりますが、その様子は次のようになります。
皮弁移植では、栄養成分血管が皮弁に付着した状態で行うために、豊富な血流があります。このため、移植先の状態に多少問題があっても、手術後の治癒は早くなる利点があります。また、皮弁自体は強度と柔軟性を持ち、折り畳んだり、曲げたり、巻いたりすることができるため、形態的な自由度があるほか、移植部への適合性を優れています。 自分の皮膚組織から皮弁は創られるので、拒否反応の心配はないものの、自身の体に新たな傷を作る欠点があります。通常、皮弁を採取する部位は、組織量が多く、血流の多い栄養成分血管が得られ、しかも傷跡も隠しやすい体幹部や大腿部となります。 やむを得ない特殊な場合には、頭頚部や四肢から採取することもあります。また、骨や神経、腱、毛などの組織を含む皮弁を採取することもできつつあります。 皮弁移植は身体のあらゆる部位に適用できますが、特に適した疾患は、たとえば、乳がん手術で乳房を摘出した跡の修復があります。この場合には、腹部の余分な脂肪を利用した筋皮弁が用いられます。最新の技術では、複雑な手足の外傷の修復に、骨や筋肉、神経をも付着させた皮弁移植を行い、運動機能の回復もできるようになっています。 |
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ティシュー・エキスパンダー法 |
〔ティッシュー・エキスパンダー法(tissue expander)〕は、〔組織伸展法〕とも呼ばれ、広範囲な皮膚や軟部組織の欠損の修復に使用される移植技術です。 この方法では、先ず、移植する組織を採取する皮膚の下部に、シリコン製の風船を埋め込みます。そこに生理的食塩水を少量ずつ注入し風船を徐々に膨らませて、その上部の皮膚を伸展させます。 ティッシュー・エキスパンダーに使用する風船には、球形のほか、直方体、クロワッサン型など様々な形態と大きさのものが使われます。 こうして出来る伸展した皮膚から皮膚または皮弁を採取し、皮膚移植または、皮弁移植により皮膚欠損部を修復するのです。 ティッシュー・エキスパンダー法は、いろいろな疾患や部位の修復に使用されますが、一般的には次のような適用分野があります。
ティッシュー・エキスパンダー法での手術は、最低でも2回行う必要があります。第1回目は風船の埋め込みであり、第2回目が移植手術です。1回目と2回目の間で、移植する皮膚を十分に伸展することになります。これらの概略手順は次のようになります。
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マイクロサージャリー |
マイクロサージャリーは、通常の手術とは異なり、顕微鏡下で特殊な器具を用いて行う微小外科のことです。 事故や手術により欠損した身体部位に、他の部位から組織を切り離して、顕微鏡下で欠損部に移植しますが、その際、移植先で血管や神経の吻合も行います。 顔面や四肢の骨や筋肉、皮膚などが、外傷やがんの除去手術などで失われた場合の修復では、骨や筋肉、皮膚、血管を付けて移植します。 マイクロサージャリーの手技は、顕微鏡下で数ミリメートル以下の動脈や静脈、リンパ管、神経同士を吻合する技術であり、これを行う医師は並々ならぬ訓練や努力を積み重ねる必要があります。また、それなりの施設が必要です。 |
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レーザー治療 |
形成外科で取り扱う外科手術の中に、レーザー光線によるアザやシミの除去、とりわけ扁平母斑、太田母斑、異所性蒙古母斑、外傷性刺青の除去、軽減などが含まれます。レーザー光線はシミやアザの除去に絶大な効果があるために、従来のドライアイス法や削皮術と並んで使用されるようになりました。 レーザー治療が適用される疾患の種類については、次に示すようなものがあります。
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内視鏡手術 |
通常の外科手術は、〔直視下手術〕といい、皮膚を長く大きく切開して外傷部や病変部を直接観察しながら行います。この方法では、どうしても傷跡は長くなり目立ちます。特にこれが顔面などの手術では外見に影響するために大きな問題です。 これに対し、通常、1センチ程度のごく短い皮膚切り口から、胃カメラのような内視鏡を挿入して行う手術法が確立されていて、これを〔内視鏡手術〕と呼んでいます。 内視鏡手術では、病変部などの周囲の皮膚を2~3か所、小さく切開します。そこから病変部などへのトンネルを作り、一方の切り口からは内視鏡を挿入し、他方からは手術用具を挿入します。そして、内視鏡の画像を見ながら手術を行います。 皮膚には小さな傷が残りますが、その傷跡は、衣服などで隠れる場所や頭髪内などで目立たない部位に残るように場所を選びます。 この手術法は、画像を見ながら行う細かい作業であるため、手術全体の時間が長くなるなどの欠点もあります。 この方法での手術の適応例には次のようなものがあります。
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デブリードマン |
デブリードマンは、感染や壊死した組織を取り去り、治療すべき部位を清浄化することで、他の組織への影響を防ぐ外科処置をいい、〔デブリ〕〔デブリドマン〕あるいは、〔デブリードメント〕とも呼ばれています。但し、神経や血管、腱に対してはデブリードマンは禁忌となります。 デブリードマンには、次のような種類があります。
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湿潤療法 |
〔湿潤療法〕とは、擦過傷などの創傷や熱傷、褥瘡などの皮膚潰瘍の処置において、従来のガーゼと消毒薬による治療とは異なり、次の三つの基本原則を貫く方法です。 ・消毒をしない ・乾かさない ・水道水でよく洗う この方法は、〔モイストヒーリング〕〔閉鎖療法〕あるいは〔潤い療法(うるおい療法)〕とも呼ばれています。 |
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骨延長術 |
先天的奇形や外傷などで骨が短くなってしまった場合、骨を延長しなくてはなりませんが、これを〔骨延長術〕といいます。 従来よりの方法では、延長したい骨を切断し、所定の長さまで移動し、発生する隙間に骨を移植します。移植する骨は、容易に生着し、しかも拒絶反応を防ぐために患者自身の他の部位の骨の一部を切り取って使用します。 この従来法では、移植された骨に感染が発生したり、接続した骨が新陳代謝で吸収されて元の長さに戻ってしまうなどの問題もありました。 これに対して、1960年代に、骨に切れ目を入れ、創外固定器という器械を用いて、毎日少しずつ引き伸ばすという画期的な方法が開発されました。 簡単にいうと、骨延長とは骨に切れ目を入れて、その両側の骨を毎日少しずつ移動させて切れ目の部分に骨組織を再生させ、骨を延ばすという治療法です。 1980年代以降、この方法は形成外科領域でも顔面骨の延長に適用されるようになりました。1980年代には、下顎骨の骨延長に適用され、1990年代になると、上顎骨や頭蓋骨の骨延長にも適用されるようになりました。現在では、ごく普通の手術法として手指や足趾の骨延長にも適用されています。 |
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◆〔形成外科〕の主な効用・効能についてご説明します。 |
形成外科の効果・効用 |
日本における形成外科は創設後半世紀以上の実績がある分野ですが、耳鼻咽喉科、泌尿器科、内科、外科など他の医療科のようには知られておりません。ほとんどの人は、美容整形は知っていても形成外科は知らないのです。 形成外科は、身体組織の異常や欠損、変形、あるいは見た目の悪さなどに対して、様々な手法、手技を用いて、機能を回復したり、形態的な美しさを取り戻す外科領域であり、強いて効果・効用といえば、身体組織にある問題を修復したり改善して、〔生活の質:QOL(Quality of Life)〕を向上することにあります。 形成外科で対象とする分野には次のようなものがあります。
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◆〔形成外科〕の副作用や注意点についてご説明します。 |
形成外科の副作用・注意点 |
皮膚移植において、皮膚移植すれば綺麗な皮膚が復元されると考え勝ちですが、皮膚移植には全く問題がないわけではありません。 移植した皮膚の下部に血液の塊ができたり、化膿してしまうと、移植した皮膚の一部、ときには全部が壊死することもあります。また、植皮した傷跡部分に凹凸ができたり、皮膚に色素沈着が発生することもあります。 |