縫縮(ほうしゅく)
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顔面にあるほくろやあざなどを切除した場合、あるいは外傷などで皮膚に組織欠損が生じた場合、通常は縫縮(ほうしゅく)法で修復することになります。
この縫縮とは、縫い縮める方法なので、周囲に縮めるだけの組織の余裕がないとできません。腹部などでは周囲皮膚組織の余裕がたっぷりあるのでかなり大きな面積の縫縮でも容易ですが、頭皮や顔面では縫い縮められる量は少なくなります。
大きく縫縮できない場合には、皮膚移植や皮弁、ティッシュー・エキスパンダーなどの方法が必要となります。それらの方法にもいろいろな欠点がありますので、縫い縮められるものは、できるだけ縫縮したほうがよい結果となります。
縫縮した場合、完全に傷跡を消すことはできませんが、できるだけ目立たないようにする手術上の工夫がなされます。縫縮する傷の方法を本来の皮膚のしわができる方向に合わせるなどです。また、皮膚の深い部分である真皮を縫合し、傷の端と端を縫い合わせ、糸の端は傷の中に埋め込みます。
縫縮の跡は、徐々に線維組織が蓄積し傷口が補強されていき、1~2か月位の時点では線維組織がちょっと目立ちますが、半年~1年くらいすると線維組織は自然に吸収され通常組織に近くなり目立たなくなります。
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皮膚移植(植皮)
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植皮とは、皮膚移植と呼ばれている治療法のことで、通常は自分自身の体の他の部分から皮膚を剥ぎ取り採取して、治療すべき皮膚欠損部分に移植する方法です。
全身やけどなどで免疫力が極度に低下しているなどで皮膚の採取が困難な場合などでは、両親などの他人の皮膚を移植することもあります。また、動物のコラーゲンから作製する人工真皮を用いたり、自分の皮膚から小さな部分の皮膚を採取し、大きく培養して用いる方法も研究されています。
移植する皮膚は、移植する身体皮膚の部位により色調や質感が異なるので、それを考慮して最適な部位より採取されます。皮膚を移植すると、通常は4日ほどで血液が流れるようになり、その後、数日以内に移植された身体皮膚の一部として機能するようになります。しかし、完全に皮膚に生着し同化するまでには数か月間が必要です。
植皮の対象となる皮膚の状態は、先天的なあざなどの欠陥や、外傷による皮膚損傷、傷あとの引きつれなどで、人工物が露出した部位や骨、腱については、植皮することはできません。
一般に皮膚は、表皮と真皮の二層からなりますが、そのどの部分を移植するかにより〔全層植皮〕と〔分層植皮〕とに分けられます。
全層植皮
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全層植皮は、表皮と真皮を含んだ厚い皮膚の移植です。全層植皮に使用する皮膚は、主に太ももの付け根部分や鎖骨部などから採取します。採取した跡の部分は、皮膚を縫い縮める縫縮法で処置しますが、線状に傷跡が残ります。
目立たない身体部位から採取するものの、採取できる皮膚の面積はそれほど大きくはできません。また、皮膚を生着することも多少の困難が伴います。
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分層植皮
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分層植皮は、表皮と真皮の一部だけを含んだ薄い層の植皮です。分層植皮では大きな面積の皮膚を採取することができますが、皮膚を採取した跡には面状の傷あとが残ります。
分層植皮は、移植した皮膚の生着が良好ですが、その後に皮膚の縮みが大きくなる問題が起こります。また、質感では全層植皮には及びません。
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皮膚移植の手術方法は、皮膚を移植される部位の準備と、皮膚を採取する部位の準備の両面から始まり、皮膚の採取、植え付け、養生となりますが、その様子は次のようになります。
皮膚を移植される部位の準備
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皮膚欠損部を止血し、洗浄して、移植される部位の状態を整えます。
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皮膚の採取
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全層植皮の場合は、メスを使って必要な面積の皮膚を採取します。また、分層植皮の場合には、ダーマトームなどの治具を用いて必要な形状の皮膚を採取します。
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植え付け
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採取した皮膚を、皮膚欠損部に縫い付けます。その後、欠損部と植え付けた皮膚とが密着してづれないように固定します。固定には、移植した皮膚上をガーゼで覆って糸で固定するか、移植部位にギブスを巻いて固定するかします。
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養生
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手術後数日~1週間ほどで、植皮部を開いて皮膚が生着しているか確認し、ガーゼ交換します。その後も数か月間は、植皮部を軽く圧迫し続けます。また、光に晒さないよう注意を払います。
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皮弁移植
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実際に生きている血流のある皮膚・皮下組織や深部組織を大きく切り取ったものを皮弁といいます。皮弁には筋肉が付着した状態での筋皮弁、筋膜が付着した状態での筋膜皮弁などの改良も進んでいます。皮弁を採取した部分は、うまく縫い付けて目立たなくしますが、多少の傷は残ります。
顔面のあざの除去・修正や悪性腫瘍の除去手術後などで、皮膚のダメージが大きい場合の皮膚の欠損部を修復するために、皮弁を移植して手術しますが、これを〔皮弁移植〕と呼んでいます。
皮膚移植の手術方法は、皮膚を移植される部位の準備と、皮膚を採取する部位の準備の両面から始まり、皮膚の採取、植え付け、養生となりますが、その様子は次のようになります。
皮膚を移植される部位の準備
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皮膚欠損部を止血し、洗浄して、移植される部位の状態を整えます。
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皮膚の採取
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悪性腫瘍やあざの手術後の損傷の大きい皮膚の状況に合わせた皮弁を採取します。皮弁を採取した部分は、うまく縫縮するなどしてできるだけ目立たないように処置します。
皮弁は、自分自身の組織を用いて採取しますので、基本的に拒否反応もなく確実な臓器移植といえます。
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植え付け
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採取した皮弁を、目的の皮膚欠損部に移動し縫いつけます。その後、欠損部と植え付けた皮膚とが密着してづれないように固定します。固定には、移植した皮膚上をガーゼで覆って糸で固定するか、移植部位にギブスを巻いて固定するかします。
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養生
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手術後数日~1週間ほどで、植皮部を開いて皮膚が生着しているか確認し、ガーゼ交換します。その後も数か月間は、植皮部を軽く圧迫し続けます。また、光に晒さないよう注意を払います。
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皮弁移植では、栄養成分血管が皮弁に付着した状態で行うために、豊富な血流があります。このため、移植先の状態に多少問題があっても、手術後の治癒は早くなる利点があります。また、皮弁自体は強度と柔軟性を持ち、折り畳んだり、曲げたり、巻いたりすることができるため、形態的な自由度があるほか、移植部への適合性を優れています。
自分の皮膚組織から皮弁は創られるので、拒否反応の心配はないものの、自身の体に新たな傷を作る欠点があります。通常、皮弁を採取する部位は、組織量が多く、血流の多い栄養成分血管が得られ、しかも傷跡も隠しやすい体幹部や大腿部となります。
やむを得ない特殊な場合には、頭頚部や四肢から採取することもあります。また、骨や神経、腱、毛などの組織を含む皮弁を採取することもできつつあります。
皮弁移植は身体のあらゆる部位に適用できますが、特に適した疾患は、たとえば、乳がん手術で乳房を摘出した跡の修復があります。この場合には、腹部の余分な脂肪を利用した筋皮弁が用いられます。最新の技術では、複雑な手足の外傷の修復に、骨や筋肉、神経をも付着させた皮弁移植を行い、運動機能の回復もできるようになっています。
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ティシュー・エキスパンダー法
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〔ティッシュー・エキスパンダー法(tissue expander)〕は、〔組織伸展法〕とも呼ばれ、広範囲な皮膚や軟部組織の欠損の修復に使用される移植技術です。
この方法では、先ず、移植する組織を採取する皮膚の下部に、シリコン製の風船を埋め込みます。そこに生理的食塩水を少量ずつ注入し風船を徐々に膨らませて、その上部の皮膚を伸展させます。
ティッシュー・エキスパンダーに使用する風船には、球形のほか、直方体、クロワッサン型など様々な形態と大きさのものが使われます。
こうして出来る伸展した皮膚から皮膚または皮弁を採取し、皮膚移植または、皮弁移植により皮膚欠損部を修復するのです。
ティッシュー・エキスパンダー法は、いろいろな疾患や部位の修復に使用されますが、一般的には次のような適用分野があります。
広範な欠損部修復
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広範囲なあざや母斑、傷跡など欠損部の面積が広く、周辺の余剰組織では被覆が不可能なもの
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限定組織の修復
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大きな禿や傷、火傷による脱毛部分への有毛部皮膚修復、口唇などの粘膜修復、顔面の広範囲な傷や皮膚欠損部の修復など、他の部位では代替できない特殊組織を必要とするもの
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立体的再建
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小耳症の耳の拡大修復や乳房再建などのような立体的な再建を要するもの
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広範囲の植皮
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広範囲火傷や外傷に対する広い範囲の植皮、皮弁を要するもの
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難治肥厚性瘢痕修復
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一般にケロイドと呼ばれる、火傷や外傷後にできる赤紅色の醜痕など、難治性の肥厚性瘢痕を修復するもの
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ティッシュー・エキスパンダー法での手術は、最低でも2回行う必要があります。第1回目は風船の埋め込みであり、第2回目が移植手術です。1回目と2回目の間で、移植する皮膚を十分に伸展することになります。これらの概略手順は次のようになります。
第1回目手術
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先ず、皮膚を移植したい部位の近辺の健全な皮膚の下に風船を埋め込みます。この際、風船を埋め込むための皮膚への切り口は、健全な皮膚の方ではなく、いずれ皮膚を移植するあざなどの中に置きます。
また、生理食塩水を注入するためのポートも少し離れた皮下に起きます。
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皮膚の伸展
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風船を埋め込み、傷が安定したところで、ポートを経由して風船に生理食塩水を注入します。注入の管理は、皮膚の張り具合や色、患者の痛みなどを考慮しながら行います。伸展の最終段階では、皮膚は目で見て分かるほどに膨らみます。
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第2回目手術
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十分に皮膚が伸展したら、これを切除して必要部位への移植を行います。また、風船やポートなどは除去します。
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マイクロサージャリー
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マイクロサージャリーは、通常の手術とは異なり、顕微鏡下で特殊な器具を用いて行う微小外科のことです。
事故や手術により欠損した身体部位に、他の部位から組織を切り離して、顕微鏡下で欠損部に移植しますが、その際、移植先で血管や神経の吻合も行います。
顔面や四肢の骨や筋肉、皮膚などが、外傷やがんの除去手術などで失われた場合の修復では、骨や筋肉、皮膚、血管を付けて移植します。
マイクロサージャリーの手技は、顕微鏡下で数ミリメートル以下の動脈や静脈、リンパ管、神経同士を吻合する技術であり、これを行う医師は並々ならぬ訓練や努力を積み重ねる必要があります。また、それなりの施設が必要です。
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レーザー治療
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形成外科で取り扱う外科手術の中に、レーザー光線によるアザやシミの除去、とりわけ扁平母斑、太田母斑、異所性蒙古母斑、外傷性刺青の除去、軽減などが含まれます。レーザー光線はシミやアザの除去に絶大な効果があるために、従来のドライアイス法や削皮術と並んで使用されるようになりました。
レーザー治療が適用される疾患の種類については、次に示すようなものがあります。
血管性病変
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・単純性血管腫(赤ブドウ酒様血管腫)
・苺状血管腫
・老人性血管腫
・毛細血管拡張症
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表皮色素異常症
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・雀卵斑(そばかす)
・老人性色素斑(日光黒子)
・光線性花弁状色素斑
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真皮メラノサイト増殖症
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・太田母斑
・蒙古斑・異所性蒙古斑
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母斑・良性皮膚腫瘍
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・扁平母斑
・色素性母斑(黒子)
・表皮母斑(疣状母斑)
・老人性疣贅(脂漏性角化症)
・アクロコルドン
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皮膚異物沈着症
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・外傷性刺青
・装飾刺青
・色素性母斑(黒子)
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スキンリサーフェシング概論
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・レーザーリサーフェシング
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内視鏡手術
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通常の外科手術は、〔直視下手術〕といい、皮膚を長く大きく切開して外傷部や病変部を直接観察しながら行います。この方法では、どうしても傷跡は長くなり目立ちます。特にこれが顔面などの手術では外見に影響するために大きな問題です。
これに対し、通常、1センチ程度のごく短い皮膚切り口から、胃カメラのような内視鏡を挿入して行う手術法が確立されていて、これを〔内視鏡手術〕と呼んでいます。
内視鏡手術では、病変部などの周囲の皮膚を2~3か所、小さく切開します。そこから病変部などへのトンネルを作り、一方の切り口からは内視鏡を挿入し、他方からは手術用具を挿入します。そして、内視鏡の画像を見ながら手術を行います。
皮膚には小さな傷が残りますが、その傷跡は、衣服などで隠れる場所や頭髪内などで目立たない部位に残るように場所を選びます。
この手術法は、画像を見ながら行う細かい作業であるため、手術全体の時間が長くなるなどの欠点もあります。
この方法での手術の適応例には次のようなものがあります。
おでき摘出
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脂肪腫や乳腺腫瘍、骨腫瘍などの皮膚の下にできたおできの除去
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骨切り手術
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頬骨や上下顎骨など顔の骨折の治療や骨切り
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各種再建移植材料の採取
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形成外科手術に必要となる筋肉や筋膜、血管、神経などの各種再建移植材料の採取
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漏斗胸やハト胸手術
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漏斗胸やハト胸手術などの矯正
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美容外科手術
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皺とり手術や豊胸術など美容外科手術への応用
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デブリードマン
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デブリードマンは、感染や壊死した組織を取り去り、治療すべき部位を清浄化することで、他の組織への影響を防ぐ外科処置をいい、〔デブリ〕〔デブリドマン〕あるいは、〔デブリードメント〕とも呼ばれています。但し、神経や血管、腱に対してはデブリードマンは禁忌となります。
デブリードマンには、次のような種類があります。
外科的デブリードマン
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メスやハサミを用いて創の異物、壊死組織を切除する方法
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化学的デブリードマン
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外用剤を用いて創の異物、壊死組織を溶解する方法
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保存的デブリードマン
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特殊な素材に創の異物、壊死組織を吸収させる方法
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その他のデブリードマン
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蛆(うじ)を用いたデブリードマンが行われることもある。
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湿潤療法
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〔湿潤療法〕とは、擦過傷などの創傷や熱傷、褥瘡などの皮膚潰瘍の処置において、従来のガーゼと消毒薬による治療とは異なり、次の三つの基本原則を貫く方法です。
・消毒をしない
・乾かさない
・水道水でよく洗う
この方法は、〔モイストヒーリング〕〔閉鎖療法〕あるいは〔潤い療法(うるおい療法)〕とも呼ばれています。
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骨延長術
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先天的奇形や外傷などで骨が短くなってしまった場合、骨を延長しなくてはなりませんが、これを〔骨延長術〕といいます。
従来よりの方法では、延長したい骨を切断し、所定の長さまで移動し、発生する隙間に骨を移植します。移植する骨は、容易に生着し、しかも拒絶反応を防ぐために患者自身の他の部位の骨の一部を切り取って使用します。
この従来法では、移植された骨に感染が発生したり、接続した骨が新陳代謝で吸収されて元の長さに戻ってしまうなどの問題もありました。
これに対して、1960年代に、骨に切れ目を入れ、創外固定器という器械を用いて、毎日少しずつ引き伸ばすという画期的な方法が開発されました。
簡単にいうと、骨延長とは骨に切れ目を入れて、その両側の骨を毎日少しずつ移動させて切れ目の部分に骨組織を再生させ、骨を延ばすという治療法です。
1980年代以降、この方法は形成外科領域でも顔面骨の延長に適用されるようになりました。1980年代には、下顎骨の骨延長に適用され、1990年代になると、上顎骨や頭蓋骨の骨延長にも適用されるようになりました。現在では、ごく普通の手術法として手指や足趾の骨延長にも適用されています。
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