外用薬の特徴
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外用薬は、外用剤とも呼ばれますが、厚生労働省の定義で見られるように、内服薬および注射薬を除く、人体へ直接的に用いる全ての医薬として定義されています。
簡単にいえば、外用薬には飲用しない薬、注射しない薬という共通点があります。このため、その種類も多岐にわたり、それらに含まれる薬剤名も無数にあります。中でも、日常的に使用される外用薬には、各種の軟膏類やパップ剤、トローチ薬、目薬など馴染みの深いものが数多くあります。
外用薬は、内服薬とは異なり、抗生物質、解熱用、鎮咳用などの一部の坐剤を除いては、体内に吸収されることは少なく、血管や血液、および肝臓や腎臓などの臓器に悪影響を与えることは少ない優れた特徴があります。
しかし、外用薬の中には、妊婦やウイルス性疾患に罹っている場合には使用してはいけないものもあるので、使用にあたっては注意も必要です。
外用薬には、一般市販薬も多いのですが、医師の処方箋により調合される処方薬も少なくありません。
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外用薬の種類
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外用薬の分類や呼び名はさまざまで、分かりにくいものも多いですが、多くの場合、次のような分類がなされています。これらの各項目の中には更に多くの小さな項目があります。それぞれの外用薬は、その目的によって使い分けられます。
外皮用薬
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外皮に用いる医薬
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塗布剤
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外皮に塗る薬
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貼付剤(ちょうふざい)
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皮膚に貼る薬
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エアゾール剤
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スプレー剤とも呼ばれる薬
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点眼薬
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目に用いる薬
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点鼻薬
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鼻に用いる薬
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点耳薬
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耳に用いる薬
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口腔薬
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口に用いるが飲み込まない薬
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吸入薬
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口や鼻から呼吸と共に吸い込む薬
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坐薬
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肛門に用いる薬
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外皮用薬
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外皮用薬は外皮用剤とも呼ばれる医薬で、外皮に発症するいろいろな炎症、発疹、痒み、創傷などの治療用として用いる医薬です。また、細菌や真菌など外部からの侵入による疾患に対して、局所的に治療を施すための医薬でもあります。
外皮用薬の剤型には、〔塗布剤(塗り薬)〕〔貼付剤(貼り薬)〕〔エアゾール剤(スプレー薬)〕などがあります。
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塗布剤
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塗布剤とはいわゆる〔塗り薬〕と呼ばれる薬剤のことで、直接的に皮膚に塗る薬です。用途に応じて様々な剤型がありますが、治療する皮膚疾患や怪我の状況、あるいは薬の成分によって使い分けられます。
このような塗布薬には、〔軟膏〕〔クリーム〕〔ローション〕〔ゲル〕〔スプレー〕などいろいろな剤型のものがあります。効能は同じでも、剤型の違い、たとえば軟膏とクリームなどで使用感や薬の浸透感が違います。
クリーム剤
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滑らかでよく伸びる一般にクリームと呼ばれている剤型の塗布薬です。擦り込むことで特有のマッサージ感があり、気持ちよいと感じる人が多いです。反面、べとつき感があり、それが気持ち悪いと感じる人もいます。また、揮散しやすく、汗で流れやすいなどの欠点もあります。
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軟膏剤
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軟膏剤は、基剤となるワセリンなどの油脂分の中に薬効成分を混ぜた薬品で、クリーム剤に比べると伸びはよくありませんが、べとつきがなく、揮散しにくいため、持続性があります。
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液剤
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液剤は、薬効成分をアルコールを溶媒として溶かし込み液化した薬剤で、べとつきはありません。アルコールに浸透性があり、傷口が深い場合には浸みて強い痛みを伴うことがあります。また、アルコールにアレルギーなどある人は注意して使用する必要があります。
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ゲル剤
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アルコールを溶媒とした液剤をゲル状態に固めた薬品で、液剤より薬効成分の吸収性に優れていますが、マッサージには向いていません。こするとよじれが発生してしまいます。
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ローション剤
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非常に流動性があり、液剤より広範囲に塗ることを目的とする薬剤です。主に、皮膚の乾燥を防いだり、痒みを鎮めたりする目的で使われます。また、マッサージ効果が高い特徴があります。
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チック剤
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ゲル剤をさらに硬く固めたハードゲルと呼ばれる固形状にした薬剤です。手や衣服を汚すことなく、患部にむらなく塗ることができますが、伸びは悪く、乾燥しやすい欠点があります。
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貼付剤
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貼付剤(ちょうふざい)は、通常、〔貼り薬〕と呼ばれる薬剤で、肩こりなどの患部に貼って皮膚から薬効成分を浸透させて治療する薬です。
一般人が普通に使う用途では、筋肉痛や肩こり、打ち身、捻挫などの筋肉炎症を治療する目的でよく使われます。一方で、医療用として、喘息など呼吸器疾患用に使用するものもあります。
貼付剤には、〔パップ剤〕〔プラスター剤〕〔テープ剤〕および〔パッチ剤〕などの種類があります。
これらの貼付剤は、皮膚に直接貼り付けるので、長時間貼ったままにしたり、同じ場所に何度も貼りかえたりすると、かぶれの炎症を引き起こすことがあります。また、入浴前には、剥がした方が安全です。入浴後も30分程度してから貼り付けた方がよいでしょう。
パップ剤
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パップ剤は、ハップ剤と呼ばれ、フェルトの布に薬剤を厚めに塗ったもので、患部の皮膚に糊状の薬剤を貼り付けて治療する剤型です。薬剤は多くの水分を含んでいて肌への刺激は少ない特徴があります。一方で、どうしても厚みがあるので患部から剥がれやすく、包帯やテープでしっかり止める必要があります。
パップ剤は、粘着力が高く、保湿効果が高いので薬効成分の吸収がよくなっています。冷却用もあり炎症による腫れを冷やすのにも効果があります。
最近では、インドメタシンのような非ステロイド系抗炎症剤のパップ剤が増えてきています。薬効成分と吸収促進剤とを組み合わせたパップ剤も登場し、皮膚表面近傍だけでなく、炎症を起こしている筋肉の深部や関節内部にまで浸透し高い効果を発揮しています。
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プラスター剤
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プラスターとは硬膏を意味し、脂溶性の高分子の基剤に薬効成分を含ませた剤型で、水分は含まれていません。粘着力が高く、主に温熱療法で使用されます。
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テープ剤
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テープ剤は、ポリエチレンフィルムなどの薄い素材に粘着剤と薬効成分を一緒に薄く塗った剤型です。打ち身やねんざなどに使う貼り薬の湿布として使われます。
テープ剤は、柔軟性があり粘着性も高いので、皮膚の固定部分にもよいですが、よく動かす関節部分などの炎症の治療にも適しています。含有水分が少なく保湿効果もすぐれていて、肩こりや腰痛など慢性の痛みに効果があります。
肩・腰・関節痛などの炎症と痛みを抑えるフェルビナク製剤の貼り薬としては、テープ剤が主体的に使用されています。フェルビナクは、抗炎症、鎮痛作用を持ったフェニル酢酸系の非ステロイド性抗炎症薬です。
薄くつくられているテープ剤は、貼ったときに目立ちにくい特徴があります。顔面などに貼っても分からないような質感のものもあります。
特殊なテープ剤として、注射をする際の痛みを和らげてくれるものがあります。注射の30分くらい前に、注射を刺す部位に麻酔薬入りのテープ剤を貼っておくことで注射時の恐怖を和らげてくれます。
更に、狭心症のような全身性の病気の予防や、緊急的対処法としてのテープ剤も使用されています。
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パッチ剤
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パッチ剤は、非常に薄いシール状の薬剤です。皮膚の円勝負に限らず、口腔内、舌などの患部に貼り付けます。患部の治療効果だけでなく、患部を保護したり、隠したりする効果もあります。
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エアゾール剤
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エアゾール剤は、スプレー剤とも呼ばれるもので、薬剤をエアゾール化した医薬です。
手を汚すこともなく、広範囲の患部に簡単に塗布することができますが、一方で、薬剤の浸透性や持続性に乏しく、効果は限定的です。
また、スプレー剤として可燃性のガスを使用することが多く、火気の近くで使用すれば思わぬ危険があります。誤って吸引してしまうと予想外の問題を引き起こしかねない怖さもあります。
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点眼薬
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点眼薬とは、いわゆる目薬のことで、目に点眼して目の症状、疾患を治癒したりする薬剤の総称です。目の疾患や目に入ったゴミの除去などにも使われます。
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点鼻薬
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点鼻薬とは、鼻に塗ったり吸引して鼻の症状、疾患を治療する薬剤の総称です。主にアレルギー性疾患の治療に用いられます。
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点耳薬
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耳の疾患に使う薬です。液タイプや、軟膏など塗るタイプもあります。
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口腔薬
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口腔薬は、飲用以外の目的で、口腔内で用いる薬剤の総称です。
口の内部や喉の疾患に使用する薬で、基本的に飲んではいけません。うがい薬が典型的な口腔薬ですが、口内炎治療用などで口の中に塗る軟膏や、のどの痛みに喉の奥の方にスプレーする薬などもあります。
〔含嗽剤〕〔噴霧剤〕〔トローチ〕〔軟膏薬〕〔スプレー薬〕および〔舌下薬〕などのような種類があります。
含嗽剤
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含嗽とはうがいのことで、口腔内および咽喉部を殺菌、消毒するための薬剤です。
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噴霧剤
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薬を蒸気状にして、口腔内に吸入する薬剤で〔吸入薬〕や〔吸入剤〕ともいいます。主に喘息など呼吸器疾患の発作時の治療などに用いられます。
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舌下薬
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心臓発作時の応急処置薬としてニトログリセリンが有効であることは有名です。狭心症の発作は、一時的に心筋への供給血液量が不足して、胸に圧迫感を感じたり、強い締め付けられるような痛みを感じます。更に悪化すれば、血管が閉塞し血流が止まり、ついには心筋梗塞の状態に至ってしまいます。
ニトログリセリンは、狭心症発作の特効薬で、舌下薬として舌の下に含ませて溶解させ、口腔内の粘膜から素早く吸収させます。ニトロは冠動脈拡張薬であり、数秒から数分以内に心臓の冠動脈をはじめ全身の血管を強力に広げてくれます。これにより、心筋へも大量の血液が供給されるようになり、狭心症の発作は治まります。しかし、この効果は一時的なものであり、狭心症の原因そのものが無くなるわけではありません。
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トローチ
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トローチは、一定の形状にした医薬品で、口中で徐々に溶解または崩壊させて、口腔、咽頭などに適用する製剤です。風邪による喉の荒れ、痛み、腫れなどの不快感を緩和し、口腔内の殺菌、消毒、口臭の除去効果などがあります。
トローチには、抗生物質を入れたものと殺菌剤や麻酔剤を入れたものとがあります。抗生物質系では、テトラサイクリン、フラジオマイシン、グラミシジン、バシトラシンなどがあり、殺菌剤系では、臭化ドミフェン、塩化デカリウム、クロルヘキシジン、局所麻酔剤系では、アミノ安息香酸エチルなどの薬剤があります。
面白いことに、トローチには穴が開けられているのが普通です。過去に、トローチを舐めているうちに誤って飲み込んでしまい気管支に詰まって窒息死する事故が多発した時期があり、これを防止するために誤飲した場合にも空気の通り道を確保するためにこのようになりました。
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軟膏薬
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軟膏薬は軟膏剤・皮膚外用剤とも呼ばれる薬で、皮膚に起こった疾患を治療するための半固形の製剤です。ワセリンなどの基剤の中に医薬有効成分を分散させています。
基剤と有効成分との混合は、単純に基剤に混合したり、溶媒に溶かしたり、あるいは加熱溶解させて分散させます。剤型としては、チューブ入りや、プラスチック容器、ガラス容器に詰められた形で販売されています。
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スプレー薬
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口腔内用のスプレー薬には、のどの炎症によるのどの痛み、のどの腫れ、のどの荒れ、のどの不快感、声がれなどの治療薬や、口臭除去剤などがあります。
また、特殊なものでは、狭心症用の緊急対処用に使われるニトログリセリンのスプレー薬などもあります。
スプレー剤は、手や衣服などを汚すこともないので便利さが売り物です。
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坐薬
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坐薬は、坐剤とも呼ばれる薬剤で、肛門や膣、ときには尿道に注入したり、患部に直接塗ったりして、患部や症状を治療したり、症状を緩和するための薬剤の総称です。主に〔坐剤〕〔軟膏剤〕および〔浣腸〕などの種類があります。
坐剤
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坐剤は、ロウのような基剤となる物質に医薬品を混和し、砲弾型など一定の形状に成型した固形の製剤です。肛門内や膣内、ときには尿道内に挿入し、体温で溶けるか、軟化するか、あるいは分泌液で溶けるようになっています。
基剤となる物質には、油脂性素材、水溶性素材などの物質が用いられ、必要に応じて乳化剤や懸濁化剤などを加えたものが使われます。
坐剤は、痔疾患の治療薬として用いられることが多いですが、坐剤特有の優れた特性があり、それ以外の疾患などの治療用としても頻繁に用いられます。
風邪などの発熱時にしようする消炎鎮痛剤として坐剤を用いると、薬剤は肛門粘膜から吸収され全身に作用し、迅速な効果を発揮します。
坐剤は、内服薬ではなく胃や小腸を経由しないので、食事の影響を受けずに適用することができます。気分が悪く吐き気があったりしても、胃に悪影響も与えないので安心して使えます。
坐薬には〔坐剤が直腸から静脈に吸収される経路図〕で示すような優れた特徴があります。このような特徴があることで、全身用坐剤として利用されることがあります。
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薬効成分が直腸から吸収されると、門脈を通過せずに中直腸静脈や下直腸静脈から腸骨静脈を経て、下大静脈経由で全身の血流に入ります。
このため、薬効成分は、肝臓での代謝(分解・解毒)作用を受けることが少なく、薬効が迅速に現れます。
胃腸を経由しないので、胃腸を刺激せず胃腸障害も少なくなります。
乳幼児や痙攣や嘔吐のある重症患者で、経口投与が困難な患者にも投与できます。
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軟膏剤
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軟膏剤は、外皮用の軟膏剤と区別するために注入軟膏と呼ばれ、肛門内外の患部に塗布または注入する医薬です。主に痔疾の治療に用いられます。
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浣腸
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一般に浣腸と呼ばれる薬剤で、便秘がひどいときの排便促進や栄養補給などに用いられます。
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