細胞の性質
|
人体は60兆個くらいの細胞で構成されています。臓器や筋肉、骨、皮膚、神経、血管などはすべて細胞の集合体で、これを組織と呼びます。すべての細胞は、各種ホルモンや化学物質からの情報を受け取り、組織内で定められた役割を果たしています。
細胞には、受容体(レセプター)と呼ばれる蛋白質が存在して、物理・化学的な刺激を認識して細胞に応答を誘起します。このとき、細胞に応答を誘起させるような、薬剤を含む情報伝達物質を、リガンドまたはファーストメッセンジャーと呼びます。
細胞の受容体(レセプター)は一種の「鍵穴」のようなものであり、細胞に刺激を与える物質、リガンドの方はそれに対する「鍵」のようなものと理解することができます。
細胞は受容体(レセプター)からの信号を認識すると、その応答として、細胞分裂、増殖、細胞の死などの行動を起こすのです。通常の医薬は、細胞のこのような性質を利用して、患部への治療効果を発揮します。
この受容体(レセプター)へ作用する薬には、二通りあり、一つ目は、レセプターの機能を高めるもので〔作用薬〕と呼びます。もう一つは、逆に機能を抑制することによって効果を発揮する薬で、〔拮抗薬〕とか〔遮断薬〕と呼びます。
また、細胞には〔イオンチャンネル〕と呼ばれる開口部があって、作用薬や拮抗薬とは異なるメカニズムとして〔イオンチャンネル〕から入ってくるタイプの医薬もあります。
|
作用薬
|
作用薬は、リガンドである薬が細胞の受容体(レセプター)に結合した結果、レセプターの機能を高める働きをするタイプの薬です。
このタイプの医薬(リガンド)は、細胞の鍵穴部分である受容体にちょうど嵌まり込むような鍵の構造として設計されています。左に示した図は、医薬が細胞の受容体に接近し結合した様子を表しています。
作用薬の場合、受容体に医薬が結合すると細胞自体に向けて細胞の働きを促進するような信号が発信されます。この信号により細胞は細胞分裂をしたり、増殖したり、あるときには、たとえば、これが癌細胞の場合なら、自らを死滅させるような行動を起こすのです。
|
拮抗薬 遮断薬
|
拮抗薬は、受容体と結合すると、受容体の機能を抑制して、細胞から信号を発信させないようにするタイプの医薬です。
このタイプの医薬も、細胞の鍵穴部分である受容体にちょうど嵌まり込むような鍵の構造として設計されています。左に示した図は、医薬が細胞の受容体に接近し結合した様子を表しています。
拮抗薬または遮断薬と呼ばれる医薬の場合、受容体と医薬が結合すると、細胞自体は受容体を遮断し、その他の別のリガンドである、病気の原因物質やホルモン、神経伝達物質などが接近してきても、細胞の受容体には一切結合できないようにします。この作用により病気を防いだり、治療したりします。
|
イオンチャンネル
|
カルシウムやナトリウムなどの電解質物質は、プラスイオンまたはマイナスイオンとなって体液中に溶け込んでいます。電解質も受容体から細胞内へ入り、それぞれの機能を果たしますが、中には細胞の開口部であるイオンチャンネルを通過して入ってくる物質があります。
イオンチャネルとは、細胞の細胞膜や内膜などにある膜貫通タンパク質で、特定のイオンを透過させる働きを有します。医薬の中で、イオンチャンネルに作用して形状を変化させ、他の物質がイオンチャンネルを通して入れないようにする働きをするような拮抗薬があります。
カルシュームがその例ですが、カルシウムは細胞内に入ると筋肉を収縮させる機能があります。高血圧の治療に用いられる「カルシウム拮抗薬」は、イオンチャンネルに作用して、カルシウムの細胞内への流入を阻止し、筋肉の収縮を抑えることで高血圧を防止するわけです。
|