腰部脊柱管狭窄症の治療方針
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腰部脊柱管狭窄症は、加齢に伴って起こる類の病気なので、完全な自然治癒は期待できません。急激に悪化することはないものの、年数の経過とともに症状は悪い方向に向かいます。
しかし、腰部脊柱管狭窄症の治療では、基本的には手術ではなく「保存的療法」と呼ばれる療法が採用されます。
保存的療法は、日常的な生活場面で症状を改善しようとする方法であり「運動療法」をはじめ、「装具療法」「薬物療法」「ブロック注射」、および「理学療法(物理療法)」などです。
このような保存的療法をしてみても症状が悪化し重症となるときは、外科手術する以外に治療法がないのも事実です。
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運動療法
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足腰に痛みや痺れがあると、動くのが億劫になりがちですが、安静にしていることは必ずしもよくありません。動かせる範囲で身体を動かす方がよいのです。
日常生活上で、以下のような軽い運動を行います。
・歩行訓練
・プール内歩行
・エアロバイク
・腹筋・背筋強化運動
・姿勢と骨盤前傾の矯正運動
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薬物療法
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薬物療法では、馬尾や神経根の血管拡張や血流量増加を目的にした医薬が投与されます。
下肢の痺れや、軽度の間欠性跛行を呈する馬尾型では、血管拡張剤、循環促進剤などが効果を発揮します。神経根型腰痛や神経痛症状には、消炎鎮痛剤や筋弛緩剤が用いられることもあります。
更に、補助的なものとして、ビタミン剤、温湿布剤なども用いられます。
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ブロック注射
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激痛を伴う症状がある場合、「硬膜外ブロック注射」や「神経根ブロック注射」などの方法もあります。注射により激痛を抑えようとする療法です。
脊髄は硬膜という膜で包まれていますが、そこに麻酔剤を注射することで痛みを抑えます。お尻の割れ目の尾骨の上にある仙骨裂孔に注射針を刺し、そこから麻酔剤を注入すると、両下肢が温かくなり、だるさを感じるようになります。
一回限り行う場合と、何回か続けて行う方法とがあります。
麻酔薬が血液中に混入することがあり、そうなると頭痛や血圧上昇などの副作用が起こります。
硬膜外ブロック注射 |
腰から硬膜外にチューブを挿入し、局所麻酔剤にステロイド剤を加えて硬膜外腔に持続的に流し込み浸潤させます。間欠性跛行にも効果がありますが、下肢への神経痛症状には確実な効果があります。
入院し、3~4日ごとに1本づつ注射し、これを3~4回繰り返すことがあります。
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神経根ブロック注射 |
X線で映像を見ながら腰の神経根に注射針を刺し麻酔します。注射針を神経根に直接刺し込むので瞬間的に痛みますがすぐ治まり、劇的な効果が現れます。
神経根症状がある場合に特に有効な方法ですが、多根性の筋力低下や知覚症状を呈する場合はあまり有効ではないとされます。
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装具療法
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腰椎前屈装具という軟性コルセットを装着し、腰部を安静にさせます。腰部前屈装具は装着すると前かがみの姿勢になります。
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理学療法
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理学療法は物理療法とも呼ばれる療法で、鎮痛、筋痙直、血行改善を計るため以下のようなことを行います。次のような療法があり、主として神経根型に効果があります。
・ホットパック療法
・マイクロウェーブ療法(極超短波療法)
・超音波療法
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手術療法
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薬物療法などの保存的療法でも症状を和らげそれなりの効果がありますが、限界もあります。特に薬物療法などで効果が思わしくなく、高度の神経障害や間欠跛行が持続するなど、症状が重症の場合には、やはり手術療法により治療することが必要となります。
具体的な手術療法には「椎弓切除術」という方法があります。
椎弓切除術 |
椎弓切除術は、脊椎の後ろ側の骨を切除することで脊柱管を拡大し、神経の圧迫を取り除く手術です。
この手術を行うと、腰部脊柱管狭窄症の症状は軽減するか完治するのですが、一方で手術後に脊椎の安定性が悪くなり、すべり症などが起こる危険性が増します。
この問題点を解決するために、下記のような二つの方向での改善が図られています。どちらの方法が優れているかについては、今のところ定説はありません。
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椎弓切除術改善法1 |
改善法のひとつは、椎弓切除により脊柱管を大きく解放した後に骨を移植し、手術した部分の脊椎が動かないように固定する方法です。最近では、金属製のスクリューを脊椎に打ち込み、強力に固定することも行われています。
この方法は、大掛かりな手術が必要であり、身体を傷めつける侵襲性も大きく、手術のリスクも大きい欠点があります。
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椎弓切除術改善法2 |
改善法のふたつめは、椎弓切除を行う範囲をできるだけ限定して、必要最小限の骨を削るだけにするという手術です。
手術には高度な技術が要求されますが、侵襲性が少なく、手術後の脊椎の安定性も保たれます。
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