睡眠障害の治療方針
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睡眠障害にはとても多くの種類もあり、原因も症状も異なるので、ひとつの療法だけですべての睡眠障害が解決できるわけではありません。
睡眠障害の治療法の基本的な考え方は、他の病気や疾患お治療と同じように、もしも不規則な生活や悪い生活習慣があるなら、それを改めて正しい生活習慣を身に着けることから始まります。
次に、もしも睡眠障害の原因となる家庭の事情や会社生活、人間関係の問題や悩みがあるなら、現実的にはとても難しいことですが、専門医のカウンセリングを受けるなどして、それに対する改善策を行います。場合によっては職場を変えたり、住む場所を変えたりする必要が出てくるかもしれません。
また、もしも睡眠障害を誘引するような身体疾患や精神疾患があるなら、それらを治療します。
身体疾患や精神疾患などなくて、睡眠自体に問題がある場合には、非薬物療法、あるいは薬物療法で治療を行います。
厚生労働省 精神・神経疾患研究委託費 睡眠障害の診断・治療ガイドライン作成とその実証的研究班により平成13年度に報告された【睡眠障害対処12の指針】がありますので、ここでその内容を紹介しておきます。
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睡眠時間は人それぞれ、日中の眠気で困らなければ十分。
・睡眠の長い人、短い人、季節でも変化、8時間にこだわらない。
・歳をとると必要な睡眠時間は短くなる。
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刺激物を避け、眠る前には自分なりのリラックス法。
・就床前4時間のカフェイン摂取、就床前1時間の喫煙は避ける。
・軽い読書、音楽、ぬるめの入浴、香り、筋弛緩トレーニング。
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3
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眠たくなってから床に就く、就床時刻にこだわりすぎない。
・眠ろうとする意気込みが頭を冴えさせ寝つきを悪くする。
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4
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同じ時刻に毎日起床。
・早寝早起きでなく、早起きが早寝に通じる。
・日曜に遅くまで床で過ごすと、月曜の朝がつらくなる。
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光の利用でよい睡眠。
・目が覚めたら日光を取り入れ、体内時計をスイッチオン。
・夜は明るすぎない照明を。
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規則正しい3度の食事、規則的な運動習慣。
・朝食は心と体の目覚めに重要、夜食はごく軽く。
・運動習慣は熟睡を促進。
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7
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昼寝をするなら、15時前の20~30分。
・長い昼寝はかえってぼんやりのもと。
・夕方以降の昼寝は夜の睡眠に悪影響。
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8
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眠りが浅いときは、むしろ積極的に遅寝・早起きに。
・寝床で長く過ごしすぎると熟睡感が減る。
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睡眠中の激しいイビキ・呼吸停止や足のぴくつき・むずむず感は要注意。
・背景に睡眠の病気、専門治療が必要。
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十分眠っても日中の眠気が強いときは専門医に。
・長時間眠っても日中の眠気で仕事・学業に支障がある場合は専門医に相談。
・車の運転に注意。
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睡眠薬代わりの寝酒は不眠のもと。
・睡眠薬代わりの寝酒は、深い睡眠を減らし、夜中に目覚める原因となる。
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睡眠薬は医師の指示で正しく使えば安全。
・一定時刻に服用し就床。
・アルコールとの併用をしない。
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生活習慣改善法
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睡眠障害を誘起する直接の原因ではない場合でも、悪い生活習慣や不規則な生活習慣は睡眠障害をよき深刻なものにする可能性があります。
生活主感情の次のような点には注意しましょう。
生活習慣
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・遅寝、遅起の習慣をあらため、早ね早起き型にする。
・家庭内閉じこもりを止め、適度な運動を行う。
・アルコールを適量に押さえる。
・タバコを適量に押さえる。出来れば禁煙する。
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食事
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・一日3食を正しく摂る。特に朝食を抜かない。
・夜食はできるだけ控える。どうしてものときは出来るだけ軽くする。
・よい睡眠のために、カルシウムの摂取を心がける。
・油分の多い揚げ物の摂取はほどほどにする。
・野菜や果物、炭水化物、肉類、魚類などを栄養成分バランスよく食べる。
・栄養バランス上、サプリメントも有用だが、不良品に注意する。
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入浴
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・寝る直前の熱い風呂は、寝つきを悪くするので、出来るだけ早めにお風呂に入る。
・就寝前にお風呂に入るなら、ぬるめの風呂にする。
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基礎疾患治療法
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風邪などの一時的病気でも、糖尿病や高血圧などの慢性病でも、身体疾患があると、痛みや不快感などのために、睡眠が妨害されます。このような持病ともいえる身体疾患があるときには、先ず、その治療を真剣に行うことが大切です。
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リラックス療法
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心身をリラックスすれば、自ずからよい睡眠が得られます。就寝前に腹式呼吸をしたり、よい音楽を静かに聴いたり、場合によってはぬるめの半身浴などをするとよいです。
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精神療法
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うつ病や精神疾患というほどでなくても、何かの事情で気持ちが大きく落ち込んでしまうと不眠症の症状が出てしまいます。このようなときには、簡単な精神療法を受けると改善が期待されます。
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自己催眠法
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自己催眠法は、自分自身で自分の気持ちを落ち着かせたりコントロールする方法です。他人が行うわけではないので、怪しげな催眠術のような心配もなく安心して行うことができます。自己催眠の効用は次のようになります。
・心身ともにリラックスして、気分が楽になる。
・興奮していた交感神経が鎮まり、自然な眠りのムードができる。
・自然に気持ちよく眠りに落ちる。
自己催眠の方法は、簡単でもないかも知れませんが、訓練を続けると数ヶ月でマスターできるとされています。次のような書籍が参考になるかもしれません。
◆潜在能力を活かす自己催眠法
◆森式医療催眠による自己コントロール法
◆入門 自己催眠法―生き方をリフレッシュするために
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刺激制限療法
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刺激制限療法は、眠ること以外の目的で寝室に出入りすること、使うことを止める方法です。
眠くなったときだけ寝室に入ります。一旦、ふとんやベッドに入っても、20分以上寝付けないときには、寝室から別の部屋に出て、また眠気が出るまで待ち、眠くなったらまた寝室に戻ります。
こうすることでやがて眠ることができるとう方法です。
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睡眠制限療法
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睡眠制限療法は、眠れないからといって、寝室に長い時間留まると、睡眠の質が低下してしまうという考え方に基づき、横になる時間を制限しようとする方法です。
最初に、2週間ほど睡眠日記を付けます。毎日、何時に寝て、何時に起床したか記録し、平均睡眠時間を調べます。
次に、その平均睡眠時間以上、ふとんやベッドに入っていることを禁止します。
この方法を実行すると、中途覚醒や熟眠障害に効果的だとされています。
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高照度光療法
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高照度光療法は、基本的に本人の睡眠時間帯が、通常の社会生活にとって好ましい時間帯とずれてしまっている、主に概日リズム睡眠障害という睡眠障害の治療に用いられる方法です。
この方法では、2500~3000ルックスという非常に明るい光に晒されることにより、人為的に睡眠や体温調節といった生体リズムを移動させ、本来のリズムを取り戻そうとします。
この手法は、体内時計に関連する生体リズムを整えるよう作用し、心身に好ましい影響を与えますが、アルコール依存睡眠障害や睡眠時無呼吸症候群などには有効ではありません。
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薬物療法
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不眠症をはじめとする睡眠障害で医師の診断を受けると、多くの場合に睡眠導入剤や精神安定剤、あるいは睡眠薬を処方されます。睡眠障害の治療法には、既に述べてきたような多くの方法があるものの、多くの医師は薬物療法で治療しようとするからです。
睡眠導入剤や睡眠薬、そして時には精神安定剤は、不眠症や安定した睡眠が必要な人に用いられる医薬品の総称であり、服用することで睡眠時の緊張を和らげ、不安を取り除き、睡眠の質を高める作用をもっています。
睡眠導入剤は睡眠薬より安全だと思われがちですが、本質的には睡眠導入剤も睡眠薬も同等なものであり、どちらも危険というものではありません。
以前には、睡眠薬などによる睡眠療法の治療法は、一旦はじめると止められない依存性があるとか、止めると禁断症状が出るなど、激しい副作用があるとされてきました。また、使うことに一種の罪悪感があったりもしました。
しかし、最近、新しく開発された睡眠薬などでは、医師の指示に従って使用すれば、長期間の服用でも特別な問題はなく、安心して使えるようになっています。これらの睡眠薬では、副作用が全くないわけではありませんが、特別な習慣性もなく、副作用も少なくなっているのです。
睡眠薬療法には、非常に重要な注意点があります。睡眠薬は医師の指示に従って正しく服用することで、やがて睡眠のリズムが整えられ、症状が改善してきます。医師の指導により、症状の改善に伴って薬の使用量を徐々に減らしていき、やがて中止することが、薬物療法の目標だということをしっかり認識することが大切です。
多くの場合、睡眠障害の原因があるので、それを改善する努力も行い、薬の量を減らしていくのが基本だという点を忘れてはいけません。
ここで、睡眠薬の種類や使用法、副作用などについてまとめておきます。
睡眠薬の種類
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以前の睡眠薬では、依存性が高く、耐性がつきやすいバルビツール系薬剤が使われてきましたが、現在では、比較的安全なベンゾジアゼピン系薬剤が多く用いられるようになっています。
睡眠薬には、その効き方の持続時間によって「超短時間型」「短時間型」「中間作用型」および「長時間型」という四つのタイプがあります。これは睡眠薬の効果の消失半減期によっての分類であり、症状や目的に合わせて使い分けられます。
超短時間型
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超短時間型の睡眠薬は、睡眠薬を服用してから血中濃度が最大値に高まるまでの時間が非常に短時間で1時間程度の睡眠薬で、通常、「睡眠導入剤」とも呼ばれています。
この睡眠薬は、その作用が時間が2~4時間ほどしかなく、基本的に入眠障害の治療用として使用されます。ベッドに入ってもなかなか寝付けないという入眠障害のある人に使われます。
作用時間が短いので、翌朝になって眠気やふらつきなどの睡眠薬の副作用、持ち越し効果が残る心配がほとんどありません。
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短時間型
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短時間作用型(短時間型)は、服用後、効果が現れるまでの時間が短く、作用時間が5~10時間程度の睡眠薬です。
この睡眠薬は、基本的に入眠障害のある人や一度は眠りにつけても中途で目覚めてしまう中途覚醒症状のある人に用いられます。
持ち越し効果がまったくないわけではありませんが、極端に起こることはありません。
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中間作用型
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中間作用型(中間型)睡眠薬は、作用時間が約20時間あるような睡眠薬です。この睡眠薬は、中途覚醒から明け方早くに目覚めてしまう、早朝覚醒障害のある人に用いられます。
作用時間が長い睡眠薬であり、持ち越し効果が生じますが、日中に気持ちを落ち着けさせる作用が続くため、強い不安感を抱く人に用いられます。
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長時間型
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長時間作用型睡眠薬は、うつ病や統合失調症(精神分裂病)などの精神的疾患があって、それが原因となって不眠症状などが出る人に用いられる睡眠薬です。
この睡眠薬も中途覚醒から早朝覚醒障害がある場合に使用されますが、起床後になってもかなりの時間、薬の作業が継続し、抗不安薬としての作用もあります。
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睡眠薬の使用法
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睡眠薬については、どのタイプでもそれなりの副作用が出る可能性があります。このため、睡眠薬服用に当たっての注意事項や、睡眠障害が改善されて睡眠薬の減量や中止をする場合にも注意が必要となります。
服用時の注意点
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睡眠薬には、効果持続時間や副作用もあるので、次の点に注意する。
・短時間睡眠を目的にするときは、睡眠薬は服用しない方がいい。
・服用タイミングは、就寝前とする。
・睡眠薬は、アルコール類と同時に服用しない。
・睡眠薬の量は医師の指示に従う。
・自分の判断で服用量を勝手に変更しない。
・睡眠薬には弛緩作用もあり、場合によっては転倒の危険もあるので注意が必要です。
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高齢者の場合
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高齢者の場合には、肝機能や腎機能が低下していることもあるので、睡眠薬が翌日まで影響することがあります。眠気やふらつきなどの副作用症状に注意し、翌日の車の運転などしないようにしましょう。
また、身体機能の低下により、医薬の吸収や代謝(解毒)、排泄などが遅延し、睡眠薬の効果が遅れて現われることも起こります。効果が強くでたり、副作用が強くでることもあります。
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睡眠薬の減量や中止に伴う注意点
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睡眠薬服用中の人が、不眠に対する症状が改善され、不眠に対する不安感が減少したときが中止のタイミングとなります。
服用期間が、半年程度の短期の場合と1年以上もの長期にわたっていた場合では、中止後の離脱症状の出現率は大きく異なります。半年以内で中止にこぎつけた場合には5%程度の離脱率ですが、1年以上となると、80%以上になるとされます。
中止法
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効果が発揮され、中止できそうな状況になったら、内服期間を同じかそれ以上の期間を掛けて緩やかに中止するようにします。焦って急激に中止すると、反動で不眠症状がぶり返したり悪化する「反跳性不眠」の症状がでることがあります。
睡眠薬の減量や中止は次のようないくつかの方法で行います。
◆漸減法
・睡眠薬の量を、投与間隔は変更しないで、2~4週間ごとに四分の一くらい減らしていきます。
・ある用量で不眠が発症したら、それ以上は減らしません。
◆隔日法(中間作用型~長期作用型のみ適用)
・毎日服用していたのを、2日に一度に減らします。
・同時に内服量も減らしていきます。
◆置換法
・超短時間作用型や短時間作用型の睡眠薬を、中間~長時間作用型に変えて、徐々に使用量を減らします。
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睡眠薬の副作用
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最近の睡眠薬(睡眠導入剤)は、安全性が非常に高くなってはいますが、それでも人によっては副作用が出ることがあります。ここで主な副作用の出方などについてご説明します。
一般にベンゾジアゼピン系睡眠薬は安全性が高いですが、それでもアルコールと同時に服用すると作用も副作用も強くでるので、併用は禁忌とされています。また、奇異反応や記憶障害を起こしやすいともいわれています。
更に、ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、抗真菌薬、マクロライド系抗生剤、カルシウム拮抗薬、抗ウイルス薬、シメチジンなどと併用すると、作用が相乗的に強くでます。
持ち越し効果
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作用時間の長い睡眠薬では、翌日の眠気やふらつき、脱力感、頭痛、倦怠感などの症状がでることがあります。
対処法としては、睡眠薬の量を減らすか、作用時間の短いものへ変更します。
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記憶障害
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超短時間型の睡眠薬を多用すると、前向性健忘を起こすことがあります。翌朝、起床してからの出来事を覚えていないことがあります。アルコール併用時に要注意です。
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早朝覚醒
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超短時間型や短時間型の睡眠薬では、効果切れで早朝に覚醒してしまうことが起こります。これが苦痛な場合には作用時間の少し長いものに変更します。
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半跳性不眠
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睡眠薬を長期連用して後、突然服用を中止すると、強い不眠症状が現われます。特に脳障害を有する人の場合には、不安や焦燥、振戦、発汗などを起こします。
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筋弛緩作用
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作用時間の長い睡眠薬では、筋弛緩作用が出現して、ふらつきや転倒などを起こすことがあります。高齢者では骨折してしまう危険が強いので特に注意が必要です。
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奇異反応
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超短時間作用型の睡眠薬とアルコールを併用したりした場合、かえって不安や緊張が高まり興奮状態になることがあります。攻撃性が亢進したり錯乱を起こすこともあります。
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