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〔後天性免疫不全症候群(エイズ)〕 |
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〔後天性免疫不全症候群〕は、俗称で〔エイズ〕と呼ばれる病気で、HIVというヒト免疫不全ウイルスが、様々な感染経路で人体に入り、免疫細胞の機能を損なわせて免疫不全状態にする病気です。 |
〔エイズ〕の病原体は、レトロウイルスに属する「HIV」と呼ばれるウイルスで、1981年に見つかりました。 |
エイズは、後天性免疫不全症候群が正式名である難治性の疾患であり、ヒト免疫不全ウイルスが免疫細胞に感染し、免疫細胞であるT細胞やマクロファージなどを破壊することで後天的に免疫不全を引き起こします。 エイズに感染すると、発症率は非常に高く、治療は極めて困難なため、適切な治療が施されなかった場合の予後は2~3年しかありません。 現在、全世界でのエイズ患者は、6千万人に達するとされ、年々増加傾向にあり、その多くがアジア、アフリカなどの開発途上国にみられます。 エイズ治療薬の進歩は、近年飛躍的に進みつつあり、先進国におけるエイズ患者の死亡率や日和見感染の発生率を低下させています。 先進国では、人々の認識率が上昇したこともあって、増加率は減少しつつあるのですが、日本は未だに増加傾向にあります。 |
エイズに感染した場合の症状は「急性感染期」「無症状期」および「発病期」の三つの段階をもって現れます。 エイズに感染すると、最初は風邪やインフルエンザに近い急性症状が現れることもありますが、多くの感染者では特別な症状はありません。 その後、5~10年の間、特別の症状がない無症状期があり、やがて発病します。エイズは発病すると、極めて難治性で、適切な治療なしでは予後は3~5年しかありません。 |
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HIVウイルスに感染すると、1~2週間ほどで、全身倦怠や発熱があり、発疹、口腔カンジダなどを生じるなど、風邪やインフルエンザと似た症状が現れることがあります。 しかし、このような症状は普段でもよくあるものなので、単なる風邪や口内炎、蕁麻疹などとして見過ごされることが多く、気づかない人もいます。 また、このような特別な症状が何も出ない人もいます。 エイズへの感染機会があった1~2週間後に、これらの症状があったからといってエイズに感染したとはいえません。 単なる風邪でも同じような症状がでるからです。この段階で感染したかどうかは、血液検査をしない限り判断できません。 一般に感染後数日間、血液中のHIVウイルス濃度が非常に高くなりますが、数週間程度でこのウイルスに対抗するHIV抗体が産生されるようになり、ウイルス濃度は激減します。 通常のHIV感染検査では、この産生されるHIV抗体の有無を検査するため、感染直後の検査では十分な抗体が測定できず、検査結果が見かけ上の陰性となることもあるので注意が必要です。 エイズに感染すると、特別な症状が何もなかったとしても、通常6~8週間後までに、血液中にHIV抗体が検出されるようになり、その時点でHIV抗体の検査をすれば、感染の有無は明確に分かるようになります。 |
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感染機会があってから1~2週間ほどで急性症状が消滅し、感染者は無症状期に入ります。 無症状期の感染者は自覚症状などもなく、外見からは何も分からないまま、無症候性キャリアとして他の人に感染させる可能性を持つ期間になります。 この無症状期は早くて数か月、通常は数年~10年ほど続き、その間は感染者は見た目には健康そのものに見えます。 しかし、この無症状期の身体内では、HIVウイルスが盛んに増殖を繰り返し続け、免疫担当細胞である「CD4陽性T細胞」がそれに見合うだけ産生されます。 CD4はヘルパーT細胞の触覚のような働きをしているのですが、このCD4とHIVウイルスがピッタリ嵌まり込む鍵穴構造を持っているため、CD4陽性T細胞(ヘルパーT細胞)にHIVが感染してしまいます。 CD4ウイルスに対抗しようとして産生されるCD4陽性T細胞が、逆にウイルスに感染されてしまう結果、HIVウイルスはこの細胞を破壊し続け、一種の動的な平衡状態となり、この間は血液中ウイルス濃度が低く抑えられた状態になります。 しかし、無症状期を通じてCD4陽性T細胞(ヘルパーT細胞)は徐々に減少してしまいます。 ヘルパーT細胞は、細胞性免疫の重要な司令塔の役割をしているので、このT細胞の数がウイルスにより減少したり、働きがにぶくなってくると、やがて免疫不全の状態になっていきます。 |
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長ければ数年~10年の無症状期を経て、次第に免疫力は低下し、やがて一連のエイズ関連症候群と呼ばれる、全身倦怠感、疲れやすい状態、体重減少、発熱、下痢、眩暈(めまい)、寝汗、発疹、リンパ節の腫れなどの症状が現れるようになり、エイズが発病します。 また、この時期になると、顔面から全身にかけての脂漏性皮膚炎なども現れはじめ、更に病状が進行すると、ニューモシスチス肺炎(旧 カリニ肺炎)や食道カンジダ症などの、日和見感染症やカポジ肉腫などの悪性腫瘍があらわれて、はっきりとエイズと診断されるようになります。 HIV感染細胞が中枢神経系組織へ浸潤し、脳の神経細胞が冒されると、エイズ脳症と呼ばれる状態になり、精神障害や痴呆、記憶喪失を引き起こすことがあります。 最終的に亜、発病期にいたったエイズ患者の多くは、多くの症状を伴った後に死に至ります。 |
エイズは、1981年に米国の男性同性愛者にカポジ肉腫などの特殊な病気がもたらす非常に高い致死率を持つ疾患として報告されました。 その後、病原体としてレトロウイルスに属する「HIV」が分離・同定されました。 HIVはCD4と呼ばれる細胞膜蛋白質を受容体として、ヘルパーT細胞やマクロファージに感染し、細胞性免疫機構が破壊されます。 そのため、細胞性免疫の著しい機能低下が起こり、様々な日和見感染症や日和見腫瘍、中枢神経障害などの全身性の免疫不全状態が引き起こされます。 HIVウイルスに感染しても、無症候期には、血液中のウイルス濃度は見かけ上は安定しているように見えます。 しかし、現実には毎日10億~100億個ものHIVウイルスが産生され、CD4陽性T細胞を破壊し続けています。 一方で、そのウイルスを撲滅しようとして、免疫反応として、それに見合うだけの新たなCD4陽性T細胞が産生されて一種の動的安定状態を構成しています。 このように、HIVウイルスとCD4陽性T細胞との攻防戦が、日夜延々と続いているのです。 HIV感染の主戦場はリンパ節で、感染の初期段階からウイルスの増殖とリンパ濾胞の破壊が進行しています。 やがて、数年~10年もの攻防戦に終止符が打たれ、ついには免疫系システムが破綻して、エイズが発症してしまいます。 本来、HIVウイルス自体の感染力は非常に弱く、一般に空気感染などはしません。 現実に感染する機会は「血液による感染」「性的接触による感染」および「母子感染」などに限られています。 これらの感染ルートを除けば、日常生活上感染する可能性はほとんどありません。
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感染直後の数週間は、未だ抗体が十分に作られずHIV特異抗体が出現しないので、この間にHIVの血液検査を行っても陰性となり、感染ははっきりしません。 この期間を「ウインドウ」と呼んでおり、1か月ほどあります。 感染機会から、3か月以上経過していれば、HIV特異抗体が出現するので、血液検査により感染の有無を確認することができます。 しかし、抗体検査では非特異的な反応のために、あたかも陽性であるかのような偽陽性という結果がでることもあります。 このため、確定診断として血液中のウイルスRNAを「RT-PCR法」という方法で検出するウイルスDNA検査法も行われています。 HIV検査は、全国の保健所で、匿名・無料で受けることができます。 自分の居住地区以外の保管所でも検査が出来ます。 都市部の保健所であれば夜間や休日でも検査してくれるところが増えています。検査後1週間ほどで結果が分かります。 また、30分以内に結果が判明する即日検査法も普及し始めています。医療機関でも検査はできますが、この場合は有料となります。 感染機会から数週間は、ウイルスを検出できないウインドウ期間があるので、その間の献血は絶対にしてはいけません。 感染機会のあった人が献血をし、たとえ、その血液がHIVに感染していても、献血者本人には結果が知らされることはありません。 従って、検査目的で献血をしても、感染の有無を知ることは不可能で、意味のないことです。 逆に、検査目的で献血し、ウインドウ期間のために血液検査を潜り抜けてしまい、その汚染血液が輸血などに使われてしまうと、他の人にウイルスを感染させてしまうので、少しでも不安があるなら献血は絶対にしないことです。 最近では、検査法の進歩により、HIVのウインドウ期間が22日以内となる検査法も開発され、使用されています。しかし、感染機会から即日検査できる方法は存在しません。 |
エイズは治療をすることなく発症してしまうと短期間で死にいたる難病です。 しかし、近年、非常に効果的な抗HIV薬が開発され、2~4種類の薬を組み合わせて使う多剤併用療法(HAART療法)という療法によって、血液中のエイズウイルスを測定感度以下程度にまで抑えることが可能となっています。 現時点では、ウイルスを完全撲滅しエイズを完治することはできませんが、HAART療法により、エイズの発症・進行速度を大幅に抑制することができます。 抗HIV薬の開発は急速に進歩しているので、近い将来には、糖尿病などと同じような重篤ではあっても治療可能な病気になる日がくると期待されています。 既に、サルのエイズに対しては、完治できる医薬が開発されたとのニュースもあり、ヒトに応用される日も近い筈です。 そうなれば、10年後には、エイズは高血圧や糖尿病などの慢性疾患と同レベルの病気として、医薬や生活習慣の改善によって、長生きすることもできる病気になるに違いありません。 |