気管支喘息の診断方法
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喘息の診断は、その特徴的な症状から診断されるのですが、喘息が疑われるときの検査方法としては次のものなどがあります。
・理学所見
・気道可逆性試験
・胸部X線検査
・血液検査
・病理学的所見
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理学所見
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通常、発作時にはゼーゼーやヒューヒューなどの呼吸音(喘鳴)が聴取されますが、顕著には現れないこともあります。また、呼吸数が増多したり、チアノーゼ状態が現れることもあります。
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気道可逆性試験 |
気管支喘息が疑われる症状発作がでているときに、「肺活量計(スパイロメーター)」を用いて空気の流れる量を測定して、「気道閉塞の可逆性」を検査します。通常、スパイロメーター検査は、気道閉塞を検査する場合と、治療効果を確認する場合に使用されます。
喘息発作が現れているときに、先ず、スパイロメーターでの肺活量検査を行い、1秒間にどれだけの空気を吐き出すことができるかを調べる「1秒量」を測定します。その直後に「β2刺激薬」を吸入し、再度、1秒量を測定します。β2刺激薬の吸入後の「1秒量」が吸入前の値より、200mL 以上、かつ 12%以上改善する場合、気道可逆性がある(喘息)と診断されます。β2刺激薬とは、気道を拡張する医薬のことです。
あるいは、2~3週間の「ステロイド薬」の内服を継続し、吸入前後で同様な呼吸機能検査を行い、1秒量が 200mL以上、かつ 12%以上改善する場合にも、気道可逆性がある(喘息)と診断されます。
喘息発作が起きていないときには、このスパイロメーター検査で喘息を証明できないことがあります。この場合、「ピークフローメーター」という小型携帯式の器具を用いて検査する方法もあります。
ピークフローメーターは、息を深く吸って一気に吐き出すときの最大の吐き出し速度を測る機器です。自宅でこのメーターでの検査を継続します。通常、ピークフロー値は、午前 4~6時に最低値を示し、午後 4時前後に最大値を示します。
ピークフロー値に 20%以上の日内変動がみられる場合も、気道可逆性あり(喘息)と診断されます。特に、30%以上の変動があるときは、中等度~重度の喘息と診断されます。
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胸部X線検査 |
通常、喘息では、胸部エックス線検査での異常は認められません。この検査は、腫瘍や肺炎、心不全などのような他の疾患により「喘鳴」や「気道狭窄」が起こっていないかを判別するために行われます。
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血液検査 |
喘息が〔アトピー型喘息(アレルギー性喘息)〕であれば、末梢血中好酸球の増加や非特異的「IgE抗体」値の上昇がみとめられます。アレルゲン判定のためにも、アレルゲン特異的IgE抗体を測定します。
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病理学的検査 |
喘息であれば、好酸球浸潤と平滑筋肥大が認められます。
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その他の検査 |
喘息が疑われるものの、検査時に気道狭窄が起こっていない場合、健常者には影響がない程度の気道狭窄誘引物質(メタコリンやヒスタミン)を吸入させ、検査することもあります。
アレルギーが引き起こす喘息の場合には、皮膚テストでアレルゲンの検査などを行います。特定のアレルゲンが原因となる場合は、そのアレルゲンに反応する抗体の血液中の濃度を測定する検査を行うこともあります。
喘息の中で、運動誘発性喘息というものがあり、この場合には、自転車エルゴメーターなどでの運動の前後で、スパイロメーターによる1秒量を測定します。
1秒量が15%以上減少するなら、運動誘発性喘息と診断されます。(運動誘発喘息は、小児喘息に深く関連しているので、この詳細は「小児喘息」のページでご説明しています。)
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気管支喘息の治療方針
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気管支喘息の治療法には、根治のための「原因療法」と、喘息の発作を鎮める「対症療法」とがあります。
原因療法には「特異的減感作療法(免疫療法)」と「非特異的変調療法」があり、対症療法には、気管支拡張剤や咳止めなどの薬剤投与法があります。症状がひどい場合には薬剤として、副腎皮質ステロイド系薬剤を使うこともあります。
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重症度分類による治療
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気管支喘息の重症度分類は、ステップ1~ステップ4までがあり、それぞれのステップに対する治療法は次の表のようになります。治療の基本は、気道の炎症を抑えて肺機能を維持することで長期的に発作が起こりにくくします。また、どのステップの患者においても、発作発生時には、短時間作用性の気管支拡張薬(吸入β刺激薬)を頓用します。
ステップ1 軽症間欠型 |
・症状:ピークフロー値が予測値の 80%以上、朝と昼のピークフロー値の変動が20%以内。喘鳴・咳・呼吸困難が週に1~2回。
・治療:低用量の吸入副腎皮質ステロイド薬、抗アレルギー薬などを服用。
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ステップ2 軽症持続型 |
・症状:ピークフロー値が予測値の70~80%、朝と昼の変動が20~30%、週2回以上の発作、月に2回以上の日常生活や睡眠への支障、夜間症状が月2回以上。
・治療:低用量の吸入副腎皮質ステロイド薬、長時間作用性の気管支拡張薬、抗アレルギー薬を単独または併用して毎日服用。
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ステップ3 中等症持続型 |
・症状:ピークフロー値が予測値の60~70%、変動が30%以上、慢性的に症状があって吸入β刺激薬が毎日必要、週1回以上の日常生活や睡眠への支障、週1回以上の夜間症状。
・治療:中用量の吸入副腎皮質ステロイド薬、長時間作用性の気管支拡張薬、炎症を抑制する作用性の抗アレルギー薬を併用して毎日服用。
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ステップ4 重症持続型 |
・症状:ピークフロー値が予測値の60%以下、変動が30%以上、症状がしばしば憎悪し継続、日常生活が制限され、経口副腎皮質ステロイド薬を連用、気管支拡張薬が必要。
・治療:高用量の吸入副腎皮質ステロイド薬、長時間作用性の気管支拡張薬を併用して毎日服用。憎悪が継続する場合などには、経口副腎皮質ステロイド薬を短期で使用。必要に応じて抗アレルギー薬を併用。
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発作の程度による治療
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急性に憎悪する発作の程度分類には、「小発作」「中発作」「大発作」および「重篤発作」があり、それぞれ次の表のような治療が行われます。
小発作 軽度症状 |
・症状:通常は軽症の患者が抗原暴露や過労などで発作を起こした場合。
・治療:吸入気管支拡張薬の頓用を追加します。ネブライザー吸入器でも同等の効果。
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中発作 中等度症状 |
・症状:咳・痰・呼吸困難が強くなりβ刺激薬の効果が長続きしない場合。苦しくて横になれず起座呼吸状態。ピークフローが予測値の50~70%に低下。
・治療:気管支拡張薬の反復吸入、点滴、皮下注射、副腎皮質ステロイド薬の静脈注射。
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大発作 高度症状 |
・症状:もともと中等度~重症の患者が過労や風邪などで発作を起こした場合。ピークフロー値が予測値の50%以下に低下。
・治療:気管支拡張薬の反復吸入、点滴、皮下注射、副腎皮質ステロイド薬の静脈注射、酸素吸入実施。
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重篤発作 重篤症状・エマージェンシー |
・症状:大発作を起こした患者が適切な治療を怠った場合。呼吸音は弱く、顔面蒼白、冷や汗が落ち、歩くことはもちろん会話もできなくなる。ピークフロー値は測定不能。多くはチアノーゼや意識障害を伴う。
・治療:緊急入院し、ICUで大発作の治療を継続。更に悪化した場合は人工呼吸や、気道内吸入、洗浄が必要。
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気管支喘息治療薬による治療方針
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気管支喘息の治療薬は、「長期管理薬(コントローラー)」と「発作治療薬(リリーバー)」とに大別されます。また、薬の作用によって「気管支拡張薬」と「抗炎症薬」とに分けられ、目的に応じて使い分けます。
通常は、長期管理薬により発作が起きないようにし、急性発作が起きてしまった場合には、発作治療薬で対処するのですが、長期管理薬の使用により、如何に発作の発生を抑制し、発作治療薬の使用量を抑えるかが、基本的な治療の目標となります。
長期管理薬の基本薬剤は、吸入副腎皮質ステロイド薬です。重症度に応じて経口ステロイド薬も用います。その他、長時間作動型β2刺激薬、抗アレルギー薬、抗コリン剤などが併用されます。
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長期管理薬
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長期管理薬は、「コントローラー」とも呼ばれ、喘息の発作が起こらないように長期にわたって予防管理・コントロールするための薬です。
長期管理薬の基本薬剤は、吸入副腎皮質ステロイド薬です。重症度に応じて経口ステロイド薬も用います。その他、長時間作動型β2刺激薬、抗アレルギー薬などが併用されます。
ステロイド薬 |
炎症は比較的長期的に起こるので、ステロイド薬のような抗炎症薬の吸入や内服が長期的なコントロールに効果があります。
・吸入ステロイド薬
・ベクロメタゾン (BDP)
・フルチカゾン (FP)
・ブデソニド (BUD)
・シクレソニド(CIC)
・合剤(サルメテロール+フルチカゾン)
・経口ステロイド薬
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長時間作用性β2刺激薬 |
β2刺激薬には、その使用方法の違いによって3つのタイプがあります。
・長時間作用性吸入β2刺激薬
・長時間作用性貼付β2刺激薬
・長時間作用性経口β2刺激薬
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キサンチン誘導体 |
キサンチン誘導体には、「テオフィリン」「カフェイン」および「テオプロミン」などが含まれますが、喘息治療薬として重要なのは、テオフィリン系薬剤の「テオフィリン徐放性製剤」です。
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抗アレルギー薬 |
喘息の主要な発症原因は、アレルギー性であるために、抗アレルギー薬が治療に有効に働きます。次のような薬が使用されます。
・ロイコトリエン拮抗薬
・Th2サイトカイン阻害薬
・トロンボキサンA2阻害・拮抗薬
・メディエーター遊離抑制薬
・ヒスタミンH1-拮抗薬
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発作治療薬
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発作治療薬は、「リリーバー」とも呼ばれ、喘息の発作が起きてしまったときの対処・治療に使う薬です。
喘息発作が起こったときは、気管支の収縮をすみやかに取り除くために、気管支拡張薬が使われます。急を要する度合によって、注射、吸入、経口薬などが使い分けられています。また痰を出しやすくする薬剤もあります。
ステロイド薬 |
ステロイド薬は、長期管理薬としても使われますが、発作時にも有効です。
・経口ステロイド薬
・静注ステロイド薬
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β2刺激薬 |
β2刺激薬は、長期管理薬としても使用されますが、全身性の吸入薬と経口薬は発作時の薬としても有効です。
・短時間作用性吸入β2刺激薬
・短時間作用性経口β2刺激薬
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キサンチン誘導体 |
キサンチン誘導体のうちで、「短時間作用性テオフィリン薬」が発作時の対症薬として使用されます。
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抗コリン薬 |
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エピネフリン皮下注射 |
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アミノフィリン点滴静注 |
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喘息治療薬の作用による分類
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喘息治療薬は、その作用によって「気管支拡張薬(気管支を広げる薬)」と「抗炎症薬(気管の炎症をおさえる薬)」とに分けられます。
気管支拡張薬 |
気管支拡張薬には、「β2刺激薬」「テオフィリン薬」および「抗コリン薬(副交感神経遮断薬)」があります。
β2刺激薬 |
β2刺激薬は、交感神経を刺激して直接的に気道平滑筋を弛緩させ、気道を拡張させる作用があり、喘息発作時に即効性があり効果の大きな薬です。夜間~早朝の喘息発作の予防に有用です。
しかし、β2刺激薬には、抗炎症作用はないので、一時的に発作症状が消失しても、病状がよくなることはありません。β2刺激薬は、あくまでも応急処置用の薬であり、長期管理薬としては使用はできません。
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テオフィリン薬 |
テオフィリンは古くから使用されている気管支拡張剤で、作用時間が長くなるように工夫された、徐放薬が使用されます。商品名として「テオドール」「ユニフイル」「テオロング」などが有名で、長期管理薬としても使用されます。
テオフィリンには、抗炎症効果もありますが、効果や副作用には個人差があり、使用に当っては、血中濃度のモニターが必要です。
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抗コリン薬(副交感神経遮断薬) |
抗コリン薬は、β2刺激薬に比べ気管支拡張作用は弱いのですが、副作用が少ないので、高齢者に適した薬です。
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抗炎症薬 |
抗炎症薬には、「全身性ステロイド薬」「吸入ステロイド薬」および「抗アレルギー薬」があります。
全身性ステロイド薬 |
副腎皮質ホルモン(ステロイド)薬は、抗炎症作業が強く、喘息発作の特効薬的な薬ですが、長期の使用では、糖尿病や胃潰瘍、感染抵抗力低下、肥満などの重篤な副作用が現れることが知られています。
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吸入ステロイド薬 |
吸入ステロイド薬は、比較的副作用が出ない状態で使用できますが、喉にカビが繁殖しやすいなどの副作用が出ることがあります。
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抗アレルギー薬 |
抗アレルギー薬には、「メディエーター遊離抑制薬」「ヒスタミンH1拮抗薬」「トロンボキサン阻害薬」「ロイコトリエン拮抗薬」「Th2サイトカイン阻害薬」などがあります。これらの抗アレルギー薬は、ステロイドでうまく管理できない場合などに有効です。
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